設定文ではありませんが、個人ACE及びPLACEが参加してることを示すためのSSを書きました。
何か問題があればお知らせください。
<ある日の調査>
露店市場の通りを、二人の人物が歩いていた。
一人は、奥羽恭兵。もう一人は、時野健司。
涼州藩国に居をかまえる二人が、そろってこんなところを歩いているわけ。それは、この国の藩王、悪童屋・四季から届いた一通の封書から始まった。
/ * /
それは、彼らの手に直接届けられた。
表書きは何もない、黒い封筒。捺してある印だけが、それがこの国のトップからのものであることを示していた。
その呼び出しに応じて、王城まで赴いた彼らに、悪童屋直々に伝えられたのが、ある組織への参加要請だった。
「情報機関?」
よくわからない、という声をあげたのは健司だった。まあ、軍属だったとはいえ、実働部隊がメインだった彼にはあまり馴染みがなかったのかもしれない。
「ああ。先だって、セプテントリオンの侵入を容易に許してしまった件もあるからな」
悪童屋の顔が苦々しいものになり、健司と恭兵もああ、と思い至った。
セプテントリオンが情報操作を行ったために、国内が混乱に陥った事件は記憶に新しい。
「それで、防衛を前提とした情報機関なのか」
「そうだ。こちらから攻める必要はないにせよ、最低限自国の情報を守る必要がある」
ただでさえ、一般に広く知れ渡れば危険な技術のあふれている国だ。
悪童屋の心配は頷ける。
「そこで、国にとって、俺にとって信頼のおける人材を集めて、この情報機関に参加してもらおうと思ったんだ」
悪童屋が改めて二人に向き直った。
「この国の平穏に、力を貸してくれ。頼む」
藩王自ら頭を下げられた二人は、頭を下げるのはやめてくれ、といいながら参加を承諾した。
彼らにとっても、妻の平和は守りたいものだったのである。
/ * /
「で、なんで俺とおっさんの二人組なんだ?」
「そのほうが、都合がいいからだな」
健司と恭兵は、はためにはブラブラとただ歩いてるように見えた。
だが、すでに任務は始まっている。
なんだか背後がざわざわとしているが、まあ、喧騒はこういう場所にはつきものである。
一度だけちらりと視線をやった後は、あえて背後を気にしないようにしながら、恭兵が言った。
「藩王が言ってただろ。無事に帰るのが最大の任務だ、ってな」
参加するにあたって、最初に厳命されたのが、それだった。
なるほど、この国らしいと恭兵などは思ったが。
もとより、彼らにも妻をいたずらに悲しませる趣味はなかったので、言われなくとも、というところではある。
「そんで? とりあえず歩いててもしかたねーんだろ?」
「そうだな」
さしあたってセプテントリオンの影響が国内に残ってないかを調査してほしいといわれた二人は、一番情報が集まりそうな露店市場にきていたのだった。
「人が集まるところは情報が集まる。嫁さんに土産買いがてらにでも、聞き込みしてきてくれ」
「おっさんは?」
「ほかに行くところがある」
そう言い残して、恭兵はすっと路地裏に消えた。
なんとなく納得いかないながらも、健司はとりあえず道端の露店商に声をかける。
「おばちゃん、このオレンジいくら?」
「それかい? 今はちょっと値上がりしててねぇ…。ほら、この前ちょっとごたごたがあったろう?」
情報を集める。
そう意識しなければ、何気ない風をよそおった世間話という形でもさまざまな情報が手に入った。
一通りおばちゃんと話し終えたところで、不意に恭兵が戻ってきた。
健司もおばちゃんに別れを告げ、互いの情報を交換する。
「多少、物価があがってるみてーだけど、おおむね大丈夫そうだったぜ」
「ああ。こっちも元締めをあたってみたが、大丈夫そうだな」
あとはこれを分析部門に報告すればひとまずの任務は終了となる。
「まあ、帰るか」
「おー」
と、本部まで帰るために露店商を抜けた二人は、やや人気の少なくなった路地で足を止めた。
特に示し合わせたわけではなかったが、なんとなく顔を見合わせる。
あれで気づかれてないと思っているのか。そうか。
目がお互いにそんなことを語っていた。
「りんく」
と振り向いた恭兵が呼ぶのと。
「あやの」
と同じく振り向いた健司が呼ぶのと。
「わわっ」
「あ、りんくさん!」
「がう」
とりんくがあやのを乗せたグリンガムに押し出されるのと。
それぞれがほぼ同時だった。
それぞれに慌てて目を回している妻たちを立ち上がらせて、旦那二人はどうしたものかとため息をついた。
あやのを降ろしたグリンガムはおりこうに健司の横にお座りをしている。
「どうして後なんか…」
「ごめんね…」
健司が聞こうとした言葉を遮って、あやのが謝った。
しゅんとしつつ、上目遣いで見上げられて健司が固まる。
「私たちも、情報機関に所属することになったんだけど…」
その後を継いで同じようにしゅんとしたりんくが言葉を続けた。
「おとーさ…藩王が、とりあえず慣れる為に二人のあとを尾行してみたらどうかって。お仕事の様子も気になったし、それで…」
どうでもいいが、グリンガムを連れてきてしまっている時点でバレバレである。
その事実にりんくもあやのも気づいていないのだろうか。
そもそも、露店市場で話題になるくらいには目立っていたのだ。
「……尾行って、向いてねーんじゃね?」
「それは私も自分で思った…」
「……あんまり危ないことはするなよ」
「はーい……」
「まあ、そんなに怒らなくても」
それぞれがそれぞれに反省をしていると、不意に横合いから声がかかった。
驚いたのは男性陣二人である。
今の今までまったく気配など感じなかった。
警戒するのと同時に、しかし覚えのある気配だったため疑問符が頭に浮かんだ。
「どうしてここにいんだよ…」
「藩王!?」
彼らの視線の先には、まごうことなき藩王その人がいた。
腕には、しっかりと自分の奥方を抱えている。
「ふふふ。『実はそこにいた』のさ」
「スイトピーちゃんまで連れて、気配を隠していたなんて…!」
「そこまですることなのか?」
ちなみに、藩王。スイトピーがいるかぎり、評価に+4である。
「みんなの仕事ぶりを見させてもらっていたんだ。さすがは俺が選んだメンバーだな。人選に間違いはなかった」
満足そうに頷く悪童屋。ぽかんとしている4人と、やや恥ずかしそうにしているスイトピーをよそに、さらに続けた。
「この国の防諜、そして平和のためにみんなで力を合わせよう。さて、そろそろシーンも終わるし、俺たちは退場しようか。スイトピー?」
「ええ」
さっそうと去っていく悪童屋。そしてスイトピー。
とりあえず、尾行は失敗したもののその働き振りには満足してもらえたらしいと知って喜ぶ女性陣二人。
そんな女性陣二人を複雑な表情で見守る男性陣二人。
こんな日もあるのだろう。そう思いつつもこの先がやや思いやられてひたすらため息の健司と恭兵であった。
END