それから、さらに数時間後。
すでに夜は更け、あたりはしんと静まっている。
「へえ。そんなことがあったのか。おつかれさま」
悪童屋は妻との時間を存分に過ごした後、戻ってきた王城でよっきーから報告を受けていた。
「密輸組織はこの機会に一網打尽。バザールに集まった人々への被害はもちろん、そもそも捕り物があったことすらわからないようにできたのはよかったですね」
「にゃ!」
たまたま他の件で報告に来ていたNEKOBITOと戒人も誇らしげに頷いている。
「黒薔薇は回収して王城に保管してます。どうしますか?」
「王城で展示でもしたらいいんじゃないか」
悪童屋、実にあっさりとした様子でそう言った。
まあ確かに珍しいものではあるし、特別展示という形で展示すれば観光客へのアピールになるかもしれないが。
「いいんですか?」
「下手に隠したほうが、マニアや一部の好事家のコレクター心をくすぐってしまうだろうしな」
「まあ、そうかもしれませんけどね」
存在をあまり知られていないことにより、今回のような密輸事件が起こったのだとすれば、その対処が一番いいのだろう。
結局、よっきーは大至急で城内展示の手配を整えた。
NEKOBITOが展示用の特殊ケースに入れるときに、うっかり手を滑らせかけて、ひたすらあやまり倒していたり、悪童屋とスイトピー夫妻が準備中の展示会場に来た瞬間、そこにいたスタッフの視線が二人に釘付けになったりといろいろあったが、とりあえず、黒薔薇は無事に公開の運びとなった。
「健司くん、これが黒薔薇なんだって」
「へぇ。これ、食えんのか?」
「……食べられないからね? グリンガムもよだれだしちゃダメ!」
ケースの前はわいわいと見物客で賑わっていた。
この機会に…とばかりに、藩王秘蔵のターバンやら、秘書官服やら、ついでに珍しい鉱石やら恩寵の時計やらといった、普段はあまり見られないものも展示されている。
「なんとかなったな」
その様子を見ながら、よっきーは一人、ほっと胸をなでおろしていた。
最初に事が起こったときにはどうなることかと思ったが、結果的に祭りをさらに盛り上げて、この国民たちの笑顔が見られたことはとても嬉しい。
「よっきーさん、おつかれさまです」
「よっきーおつかれ。ほら、差し入れ」
りんくとゆうみがいつの間にかよっきーの後ろに立って、フレッシュジュースを差し出していた。
これも、外のバザールで買ったものらしい。
「あ、どうも」
「ようやく一休み、ですか?」
「最近、ずっと働き通しだったもんね」
「いや、むしろこれからだから」
よっきーはジュースを一口飲んでから、そう言った。
まだバザールはようやく形になったばかり。
これからどう発展していくか、それはこの先のよっきーたちの働き次第だろう。
「そうですね。これからも気は抜かないようにしなくっちゃ」
「僕もなんかお店出してみようかなー」
「あー。いや、そんなにはりきんなくても……」
いきなりやる気で銭湯を出そうか、とか話し始めた女性陣に苦笑しながら、もう一口ジュースを口に含む。
それはとても甘く、新鮮な冷たさで。
よっきーはバザールもちょっとはうまくいってるんじゃないかと満足そうに少しだけ笑ったのだった。
END
* * *
ひとまず無理やり終わらせました。
あいだ的には恭兵さんがんばったり、きっと健司くんが通りかかりで手伝ってくれたり、NEKOBITOさんたちが巻き込まれたりとドラマがあった気がするのですが(笑)
時間がないので終わらせましたー。
よっきーさんを最後まで捏造してしまった…(笑) ごめんなさいv