「それで、気がついたら僕の頭を真っ白にしていた、と…」
「にゃあ」
そのとおりだ、と言わんばかりに豆腐がちょっとなさけない声をあげた。
豆腐が、なぜこのような事態に陥ったのか、ということを身振り手振りを交えながら説明し終えたところだ。
真っ白い豆腐に乗られたせいで、よっきーの頭は見事なまでに白髪になっている。
豆腐の情けない声は、それに対しての申し訳なさかららしかった。
とはいっても、よっきーは別に怒っているわけではなかった。
話を聞くのにちょっとばかり時間を食ってしまったが、彼の思考はすでに別のところにとんでいる。
すなわち、この白い粉はいったいなんであったのか、ということだ。
「どうもきな臭いな。こういった露店には、裏の流通がつきものだが…」
いわゆる闇市、ブラックマーケット。
どこにでも現れるといって過言ではないが、あまり裏のものが国内で流通するのも困りものだ。
第一、治安にとっては非常によろしくない。
「まずは成分の分析から始めるか」
「にゃ」
豆腐が再び軽やかに地を蹴った。
どこに行けばいいのかはもうわかりきっているといわんばかりだ。
それを見送って、よっきーは再び執務机に向かい、何事かの手配を始めた。
「少なくともこの国で。悪童屋 四季の治めるこの地で、不正が罷り通るとは思わないことだ」
その時のよっきーの顔は少なくともただの少年のものには全く見えなかった。
一方その頃。
豆腐は通称科学班と呼ばれる整備士たちの元へとやってきていた。
整備士はI=Dや機械のことに強いのは当然であるが、その中で少し方向が違うものたちが集まってできた自然発生的な集団である。
よっきーからすでに連絡はいっていたらしく、豆腐の毛に付着していた白い粉を採取すると、彼らはすぐにその成分の分析を始めた。
この国は、正確さはもとより速度を重視する。
さまざまな検査が何人かの手で同時に行われ、その数時間後には大体の組成が明らかとなっていた。
「デンプン77%、グリアジン9%、グルテニン4%……」
「で? 結局なんなんだ」
「こちらは、小麦粉です」
すでに陽は傾き始め、よっきーの部屋にも夜の帳が落ち始めていた。
やや薄暗いその部屋の中で向かい合う二人の人物。
そっけなく言った部屋の持ち主でもあるよっきーの前にいたのは奥羽恭兵だった。
そのわきには、なぜか何匹かの猫もいる。
「小麦粉の流通が問題なのか?」
「いえ、問題はそちらではなく……」
ぱさ、とよっきーの机の上に資料が広げられた。
白い粉の成分は小麦粉である、という調査結果と何枚かの写真。そして、追記。
「追記。なお、小麦粉以外にわずかに付着していた物質の組成は、99%の確率で砂漠の薔薇と同質である、か。なるほど」
「先ほど探らせた所、壷の中に小麦粉をいれ、それを隠れ蓑及び緩衝材として使用して砂漠の薔薇を密輸しようとしている一団がいることが確認されました」
写真にはなるほど、白い粉の中からわずかに見える花のような砂のようなものが写っている。
悪童同盟の特産品にして土産物ナンバー1、砂漠の薔薇であることは間違いないのだろう。
「なんでただの土産物をわざわざ?」
「……我が国には、燃料生産地があることをご存知ですか?」
「ああ、まあ、一応は」
曖昧に恭兵はうなずいたが、むしろ知らないものなどいないだろう。
わんわん帝國で最も燃料を産出しているのは、悪童同盟で間違いない。
「その生産地周辺でも、砂漠の薔薇はとることができます」
「……」
「通常は、なんの変哲もない――それこそその辺の土産物屋にだって売っている砂漠の薔薇ですが、ごく稀に非常に『黒い』砂漠の薔薇が採れる事があります」
「黒いって言うのはまさか……」
よっきーは恭兵を振り返りもせずうなずいた。
「それは、通称黒薔薇とも呼ばれ、一部マニアの元では非常に高値で売買されていると聞きます。また、その結晶自体が非常に効率のよい燃料であることもわかっていて、それなりの大きさの結晶が一つあれば一家族が一冬楽に越せる、とも言われています」
※作者注:ファンタジー設定です(笑)
「ほう。そりゃすごいな」
「だからこそ、密輸という手段に出る輩がいたりするんですが…」
よっきーはそこで深々とため息をついた。
「当然のことながら、それは看過すべきことではありません」
「だろうな」
猫たちもにゃーにゃーと憤慨の意志を表している。
「とりあえず、行ってくる」
「よろしくお願いします」
「にゃー」
扉から出て行く恭兵に続いて、走り出す12匹の猫たち。
我らこそがこの国を守るのだと言わんばかりである。
悪童同盟に来てしばらく経つせいか、もう恭兵も特にその光景に違和感を感じない。
こうして、即席で結成されたチームは、賑やかなバザールの暗部へと踏み込むことになったのである。
* * *
設定を捏造しすぎたのと、よっきーさんを捏造しすぎた感があります。
ツッコミお待ちしてます…(汗)