涼州藩国 掲示板
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  [No.413] SS:無題 投稿者:よっきー  投稿日:2009/03/24(Tue) 00:36:20

とりあえず一区切りついたので出します……
余裕があればあと1〜2シーン追加したいものの。

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 ここは涼州藩国にある神社の境内。
いつもは静かなその空間に、珍しく多くの人が集まっていた。
そう、今日は涼州藩国初の豊作祈願祭である。

 その人だかりの上空を旋回する小さな影があった。
下から見るとそれは単なる鳥の影にしか見えなかったが、
さらなる上空から見るとその背に小さな人影があるのが見て取れた。
そう、藩王夫妻と並ぶこの祭りのもう一つの主役──小神族である。

「ほう……思っていたより賑わっておるのう。
つい先だってまでは我らの姿を見ただけで怯えていたくせに現金なものじゃな。
どれ、ひとつこのヨモギ様が視察してやるかのう」
ふん、と鼻を鳴らしてから鳥の背中をてち、と叩くと
鳥はそれに応えて高度を下げ祭りの会場に近づいていった。

 すると風に乗ってソースの焦げる香ばしい匂いが漂ってきたので、
ちょうど腹をすかせていたヨモギのおなかはその魅力に抗し切れず
くう、と小さな音を立ててしまった。
(……誰にも聞こえなかったじゃろうな?)
思わずキョロキョロと左右を見渡すと、
威勢よく鉄板の上でこてを振り回す焼きそばの屋台が眼に入った。
(なるほど、犯人はこいつか。ちょっと懲らしめてやるか)

 懲らしめるも何も悪いのは自分の空腹だけなのだが、
そんなことには構わず屋台の裏手に鳥を着陸させるとその背中から降り、
木陰に隠れながら焼きそば屋の様子をじいっと観察した。
店主は中肉中背の短髪を鉢巻でまとめており、年の頃はまだ20代だろうか。
手際よく材料を炒めあげるその手腕は年に似合わぬ熟練の域に達していた。
(こやつ、できる……)
魔法のようなその妙技にヨモギの目が惹かれたその瞬間。

 キャベツを取ろうと振り返った店主と目が合った。

 流れる沈黙。見詰め合う一人と一柱。
やがて店主の様子に気付いた客らが何事かと訝しげな顔で店の裏を覗き込み
彼らがヨモギの存在とその姿に気付きはじめたその時。
突然の風に舞い上がった木の葉が二人の視線を遮った。
それに呼応するかのように店主が煌く銀光のごとく両手のこてを振るうと
先ほどまで鉄板の上でじゅうじゅうと音を立てていたはずの焼きそばが
あたかも昇り竜のごとく空へと舞い上がる。
対するヨモギは疾風のごとき速度で後ろへ向かって疾走──つまりは逃げ出していた。

「なんでぇ、腹でも空かせてるみたいだから奢ってやろうと思ったのによ……
っと、お客さん、お待たせ。5わんわんね」
宙に舞った焼きそばをスチロールの皿に受け止めた店主の技と、
今まで見たことのないものを見たと言う驚きによって硬直していた客たちが
そのセリフによって呪いを解かれたかのように一斉に歓声を上げ始めた。
それに込められたものは店主のパフォーマンスとヨモギのかわいさに対する賞賛と、
あとは焼きそばが大して美味しくないことへのちょっとしたブーイングだったのだが。

 それをヨモギが知ることになるのはもう少し後のことであった。


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