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涼州犬とは、涼州藩国における犬士の別名。涼州戌士とも。
特に一般国民の中から選抜され、第七世界人と並んで国軍編成に組み込まれるものをいう。
種族全体を指す場合、「犬妖精」ともいう。
犬の遺伝子を組み込まれた人であり、犬的な能力の片鱗を併せ持つ。
現代では北国人との融合がすすみ、専門家以外は外見上ほぼ区別できない。
付け耳、付け尻尾により犬士としての自己主張を行うものが多い。
涼州における犬士の起源は、過去に行われた生体実験に由来する。
生体兵器としての「犬の能力を付加された人」の開発を目的とした実験である。
このとき生み出された実験体は、いわゆる狼男に似た外見をしていた。
しかし数体の実験体を作り出した段階でこの研究は打ち切られる。
当時のスポンサーが世論の反発をかわすため手を引いたことが原因、とされる。
研究が打ち切られた段階で、実験体は研究施設外に放棄された。
殺処分をよしとしなかったスタッフの手によるものである。
この判断は実験体たちにとって幸運でもあり不運でもあった。
命は救われたものの、施設を出た実験体たちに生活のすべはなかったのだ。
しかし放棄されたその場所は実験体たちにとって幸運だったといえる。
のちに帝國に編入されヲチ藩と呼ばれるようになる集落から、さほど遠くない土地だったからだ。
それまで研究者から日々の糧を与えられていた実験体たちは、
食料を与えてくれる人の気配を求めて、やがて集落にたどり着いた。
その時何が起こったか？ 歴史は黙してそれを語らない。
ただ土地の記録に、「犬人(いぬびと)来たる。里人、これを永く養う」と残るのみである。
しかし集落の住人たちが新たな住人を受け入れた、ということは言っていいだろう。
その後「犬人」たちが集落の生活に溶け込み、時に集落を外敵から守護するさまがいくつかの記録に見える。
自らと違うものを差別するでもなく哀れむでもなく、ただあるがままに受け入れた、とそう言えるかもしれない。
現代に至るまで「藩国を守る牙」として敬意を集める「犬なる士(つわもの)」＝「犬士」の原型がそこにある。
「犬人」たちはのちに「犬士」と呼ばれるようになり、「ヲチ藩国」に発展していく集落の防衛を担っていくのである。
集落の防衛役となった「犬士」たちは、元からの住民たちと結ばれ世代を重ねていった。
付加された犬としての能力は、その過程においても失われることなく継承されていった一方で、
狼男にも似た犬然とした外見は徐々に北国人に近づいていった。
比較的早い段階で、外見上は北国人と区別できなくなっていったといわれる。
そうした中で、犬士としてのアイデンティティであった犬の姿は次第に伝承化していく。
「犬の姿をした人」から「犬を祖先とする人」へのシフトである。
それに伴って、名前もまた「犬士」から「犬妖精」へとシフトしていく。
犬妖精たちはかつて祖先が持っていたという犬耳と犬尻尾のつくりものを着用し、
犬士の子孫・犬妖精であることを主張し、祖先への敬意と誇りを示した。
集落は時を経て次第に人を集め町へと発展し、ついには第七世界人の指導のもと一つの国家をなすに至る。
やがて国家は帝國に編入され、諸侯の一つとして封じられることとなる。
ヲチ藩国である。
これは帝國諸藩の一つとして出兵義務を負うことも意味していた。
かねてより編成が行われていた国軍がその義務を果たすべく働くことになった訳だが、
国軍の編成にあたっては、第七世界人のみならず一般国民からの選抜が並行して進められていた。
一般国民、わけても犬妖精の中から精鋭をえり抜き、第七世界人と並んで国軍の任を与える。
選抜された精鋭には故事にならい「犬士」の称号が与えられた。
これを称して犬士復興と呼ぶ。
かくして現代に復活した犬士は、第七世界人をよく助け国軍編成の中核を担っていくことになる。
また一般国民の犬妖精の間でも、「戌士」という自称が一種のブームとなっていくのである。
こうして旧ヲチ藩国時代国防の要として大いに活躍し、また注目された犬士であったが、
旧悪童同盟との合併、そして現涼州藩国の成立を境として表舞台から一旦姿を消す。
その理由に関してはいまだ不明の部分が多く、研究が待たれるところである。
犬士が歩んできた歴史についても、合併時に編纂された藩国史からは従来除かれていた。
ＥＶ１７２において涼州猫の歴史がまとめられるにあたり、
対となる涼州犬にもまた注目が集まったことで埋もれた歴史が掘り起こされたのである。
涼州犬の技術に対する考え方は、基本的に普通の人間と非常に近い。
もともと普通の人間である一般国民から選抜された以上、それは当然ともいえる。
しかしながら国軍の一員として活動する中で、一般国民とは違った意識が育っていたこともまた事実である。
自国の歴史、またニューワールドの歴史の中で、技術が人に恩恵をもたらす一方で、時に自ら開発したはずの技術が人自身に牙をむくさまを目の当たりにすることはしばしばあった。
そうした観察を通して、涼州犬たちの間には技術への慎重さ、畏れといった意識が育っていったのである。
涼州犬は編成上、犬そのものと行動を共にする必要がしばしばある。
そのため、普段からパートナーとなる犬を決めた上でともに生活する習慣がある。
涼州犬とパートナーである犬との結びつきは強いもので、
パートナー犬の写真をもって自らの写真に代えることすらしばしばある。
