[[オープニング]]
[[正方形のクリスマス]]

**北東部 [#s79b925d]
**北東部 [#dbc5bb8a]

　涼州は東西の中心を南北に走る山脈によって二分されている。
　東部は悪童同盟といい、西部はヲチ藩国と、言った。
　藩国の合併後もそれぞれの地域が残り、それ以前の姿を残している。

　北東部は砂漠地域の中でも一番の規模の居住区となっている。その中心には王城があり、正面広場には露店市場が広がっている。円形の広場の円周上に並ぶ屋台には、祭りには定番の駄菓子から、一風変わったピザのような物、羊肉を混ぜたチャーハンのような物、オアシスから持ってきた椰子の実のジュース、よく冷えたフルーツにといったさまざまな食べ物がある。
　勿論食べ物だけではない。石を削って作った人形や砂漠でとれた砂金、鉱石。あるいは石製の楽器といった物も並んでいる。
　砂漠地域の特色をよく示す服を何重にも着込んだ商人達は、それぞれがそれぞれの品々を広げ、物珍しそうな顔をしている北国人達に熱心に説明をしている。
　そしてふと視線を巡らせば、広場の中心に作られたステージでは、ゆるやかに踊る踊り子達の姿が見られた。ステージを囲むようにして伴奏者達はあぐらをかき、石の笛や羊皮で作った太鼓を叩いている。テンポはゆっくりで、どこか引き込まれるような空気に、食事を手にした人々はすっかり魅入られてしまっていた。

／＊／

　石の皿から山羊のミルクをのんでいるホワイトスノーの隣で、黒霧は椰子の実のジュースを飲みつつ右手で石の笛を転がしていた。手のひらサイズで、ふくらみの上にいくつか穴が空いている。それを指で押さえつつ側面に空いた穴に息を吹き込む、らしい。
　ちなみに、まともに音が出せなくて店員に笑われたので、今度見返してやろうと買った代物である。一個５わんわん。ちなみに山羊のミルクは２０わんわん。
　昔から音楽の授業は成績悪かったからなぁ、と益体のないことを考える黒霧。そのわりに何度か褒められた記憶があるがが、音楽に苦手意識を持つだけで嫌いにならずにすんだのはそのおかげだろう。
　壁に背を預け、広場のにぎわう様子を眺めていると、ふいに、足下でホワイトスノーが声を上げた。そちらを見れば、ホワイトスノーは右手の小道を見ている。
「あ」
「こんにちは」
　そこから、細身の男性が姿を現した。オールバックに、眼鏡をかけたその人物は静かな口調で挨拶した。
「実はそこにいたですか？」
「少し様子を見ようと思ってね」
　悪童屋は口の端を少し持ち上げて、笑った。
「ああそういえば。一度聞きたかったんですけど」
「うん？」
「やっぱり脱ぐんですか？」
　さすがにそういうシーンを書くのはちょっと。
　悪童屋はぐらりと揺れた。
「……いや、それは違うから」
　普段あまり姿を現さない事で有名な藩王にはさまざまな噂がある。
「なんですの、それは」
　と、さらに奥から白い姿が現れる。大きな瞳の女性だ。勿論、スイトピーである。
　彼女は悪童の方を見てから、足下に目を向けた。ホワイトスノーがじっと二人を見上げている。
「あら、猫。珍しい」
「君の知り合いだっけ？」悪童屋がこちらを見る。
「ええ」黒霧は軽く頷いた。「ご夫婦で来られていたんですね」
「うん。なかなか盛況みたいだね」
「ですね。笛は吹けませんでしたけど」
「笛？」
「いえ」
　黒霧は何故か石の笛をポケットに隠した。
「さて。じゃあ一通り見ましたし、次に行きますよ。藩王はどうなさいます？」
「もう少し見てから、仕事に戻ろうかな。ああ、どこか見たいところはある？」
「あれは……」
　これ以上無用にその場にいては、きっと罰が当たってしまう。黒霧はホワイトスノーと共にさっさとその場から離れていった。
~
　涼州は東西の中心を南北に走る山脈によって二分されている。~
　東部は悪童同盟といい、西部はヲチ藩国と、言った。~
　藩国の合併後もそれぞれの地域が残り、それ以前の姿を残している。~
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　北東部は砂漠地域の中でも一番の規模の居住区となっている。その中心には王城があり、正面広場には露店市場が広がっている。円形の広場の円周上に並ぶ屋台には、祭りには定番の駄菓子から、一風変わったピザのような物、羊肉を混ぜたチャーハンのような物、オアシスから持ってきた椰子の実のジュース、よく冷えたフルーツにといったさまざまな食べ物がある。~
　勿論食べ物だけではない。石を削って作った人形や砂漠でとれた砂金、鉱石。あるいは石製の楽器といった物も並んでいる。~
　砂漠地域の特色をよく示す服を何重にも着込んだ商人達は、それぞれがそれぞれの品々を広げ、物珍しそうな顔をしている北国人達に熱心に説明をしている。~
　そしてふと視線を巡らせば、広場の中心に作られたステージでは、ゆるやかに踊る踊り子達の姿が見られた。ステージを囲むようにして伴奏者達はあぐらをかき、石の笛や羊皮で作った太鼓を叩いている。テンポはゆっくりで、どこか引き込まれるような空気に、食事を手にした人々はすっかり魅入られてしまっていた。~
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　石の皿から山羊のミルクをのんでいるホワイトスノーの隣で、黒霧は椰子の実のジュースを飲みつつ右手で石の笛を転がしていた。手のひらサイズで、ふくらみの上にいくつか穴が空いている。それを指で押さえつつ側面に空いた穴に息を吹き込む、らしい。~
　ちなみに、まともに音が出せなくて店員に笑われたので、今度見返してやろうと買った代物である。一個５わんわん。ちなみに山羊のミルクは２０わんわん。~
　昔から音楽の授業は成績悪かったからなぁ、と益体のないことを考える黒霧。そのわりに何度か褒められた記憶があるがが、音楽に苦手意識を持つだけで嫌いにならずにすんだのはそのおかげだろう。~
　壁に背を預け、広場のにぎわう様子を眺めていると、ふいに、足下でホワイトスノーが声を上げた。そちらを見れば、ホワイトスノーは右手の小道を見ている。~
「あ」~
「こんにちは」~
　そこから、細身の男性が姿を現した。オールバックに、眼鏡をかけたその人物は静かな口調で挨拶した。~
「実はそこにいたですか？」~
「少し様子を見ようと思ってね」~
　悪童屋は口の端を少し持ち上げて、笑った。~
「ああそういえば。一度聞きたかったんですけど」~
「うん？」~
「やっぱり脱ぐんですか？」~
　さすがにそういうシーンを書くのはちょっと。~
　悪童屋はぐらりと揺れた。~
「……いや、それは違うから」~
　普段あまり姿を現さない事で有名な藩王にはさまざまな噂がある。~
「なんですの、それは」~
　と、さらに奥から白い姿が現れる。大きな瞳の女性だ。勿論、スイトピーである。~
　彼女は悪童の方を見てから、足下に目を向けた。ホワイトスノーがじっと二人を見上げている。~
「あら、猫。珍しい」~
「君の知り合いだっけ？」悪童屋がこちらを見る。~
「ええ」黒霧は軽く頷いた。「ご夫婦で来られていたんですね」~
「うん。なかなか盛況みたいだね」~
「ですね。笛は吹けませんでしたけど」~
「笛？」~
「いえ」~
　黒霧は何故か石の笛をポケットに隠した。~
「さて。じゃあ一通り見ましたし、次に行きますよ。藩王はどうなさいます？」~
「もう少し見てから、仕事に戻ろうかな。ああ、どこか見たいところはある？」~
「あれは……」~
　これ以上無用にその場にいては、きっと罰が当たってしまう。黒霧はホワイトスノーと共にさっさとその場から離れていった。
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