涼州藩国 掲示板
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  [No.892] 宇宙での実験 投稿者:よっきー  投稿日:2010/02/14(Sun) 23:04:38

リクエストがあったので。まだまだ半分くらいな感じですが……

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 ニューワールド上空3万数千キロ。静止軌道を大きな丸い物体が漂っていた。
その名は凸ポン号。ヲチ藩国にて開発された打ち上げ機で、今では涼州藩国の宇宙実験を一手に担っている老兵である。
型式こそ古いものの、積み上げられたノウハウによる信頼性は厚く、可愛らしいフォルムともあいまってその人気はいまだ衰えていない。

 その凸ポン号のハッチから出てきた物体が二つ。大小サイズの違う人型であった。
大きいほうの人型はわんわん帝國制式採用I=Dのケント。空間戦対応機としては最古参の部類に入る第二世代I=Dである。
そして小さいほうが白狼。現在涼州藩国で開発中の最新型WDで、今まさに空間戦用の調整を終えてテストを開始せんとするところであった。

「あーあー、テステステス。NEKOBITOさん、よっきーさん、聞こえてますか?」
凸ポン号のメインモニター前でマイクに向かって声を上げているのはliang。白狼の開発チーフだ。
彼の前には何枚ものスクリーンウィンドウが開き、白狼の動作データとその装着者であるNEKOBITOのライフデータが流れている。
現在のところデータはオールグリーン。心拍のみ閾値に近づきつつあるのはテストへの緊張か、それとも宇宙空間の感覚に戸惑っているのか。
いずれにせよliangはテスト開始に支障なしと判断し、最初のスイッチを押した。

「いいですか。これから隕石型のダミーバルーンを射出します。それを回収して戻ってきてください」
「あい、さー」
返事があるや否や、発射管に装填されたバルーンが射出され、内部のガス圧で自動的に膨張する。
針金の骨組みによって遠めには隕石と見分けのつかないそれを追って、スラスターを噴かした白狼がすべるように動き始めた。
簡単そうに見えるテストではあるが、スラスターや人工筋肉の精度と反応速度を測るには十分な内容であるし、
宇宙空間では少しの事故がきっかけで死ぬまで宇宙をさまよい続けなければならない危険もあるのだ。
最初から限界まで振り回すような無茶をさせるわけにはいかないということでこのテストとなったのである。

 白狼が動き出すと、それを追うようにしてよっきーのケントも動き始めた。
こちらは万一の事故のときのためにフォロー役として追随しているのだが、それでも万全とはいえないのが宇宙というフィールドの恐ろしさである。
もしも白狼に装備された4機のスラスターが同時に暴走でも始めたら、質量のせいで出足の遅いケントでは見失ってしまう可能性が充分にある。
仮に追いつけたとしても地球の重力につかまってしまえば、大気圏突入能力のない白狼やケントは一巻の終わりなのだ。
何度地上でのテストやシミュレーションを繰り返し万全を期してきたといえども、
その事実はこの場にいる全員の腹の底に冷たい錘として引っかかっているのであった。

 その不安が現実となったのはそれから40分ほどたった後、兵装試験のさなかのことである。
後にハイ・レーザーライフルと呼ばれることになる得物を構え、NEKOBITOは標的である古い装甲板に狙いをつけると、凸ポン号に最終確認を送った。
「TLAS−XHLR、射撃試験準備オーケーです。開始タイミングください」
「こちらケント。周辺領域クリア。射線上クリア。問題なし」
「了解。それでは開始、お願いします」
「あい、さー。カートリッジロード。ファイア!」
一条の閃光が銃口から放たれると、分厚い装甲板にはまるで錐で紙を突き通すかのように一瞬で穴が開き、遅れて蒸発した装甲剤の反動でくるくると回りだした。
その期待通りの威力に歓声を上げようとしたliangが耳にしたのは、だがしかしNEKOBITOの悲鳴であった。

「にゃああぁぁぁっ!?目が、目が回るるるる……」
「どうしたんですか、NEKOBITOさん!よっきーさんフォローを!」
「もう動いてる!でもスラスターが暴走したみたいでクルクル回りながら吹っ飛んでるから軌道の予測がつかない……こりゃ掴まえるのには手間取るぞ」
「パターン予測はこっちで作りますから今はとにかく見失わないように!NEKOBITOさんも自力でリカバーできませんか?」
だがその呼びかけにも、NEKOBITOから返事の帰ってくる様子はない。
liangは素早く各種のデータを一睨みすると、コンソールに指を滑らせ矢継ぎ早に指示を開始した。

(いくら目を回しているだけ、と言ってもなぁ……)
liangからNEKOBITOがひとまず無事であることを告げられたよっきーだが、その表情はいまだ厳しい。
そもそも肉体を強化した改造歩兵とはいえ、その脳は生身のものである。あれだけの遠心力で振りまわされれば脳にどんなダメージがあるか知れたものではない。
(ここはNEKOBITO君には悪いが、強引に機体をぶつけてでも動きを止めないといけないな……)
などと考えて機体を急加速させようとしたその時。
突然脳裏に危険信号がフラッシュした。反射的に機体を緊急回避に入らせると遅れてコックピットのアラートが点滅する。
次の瞬間、先ほどまでケントの機体があった場所を超高出力のレーザーが横薙ぎにし、右の足首から先がごっそりと溶断されていた。
「うへ、ぇ。こんな予告なしレーザーかいくぐって飛び込めっての?どんな無理ゲー……」
連射の効かないレーザーとは言え、捕捉に手間取っているうちに至近距離から撃たれる可能性は充分にありうる。今は距離をおいて少しでも被弾率を下げるしかなかった。

 ケントのコクピットでよっきーがほぞを噛む思いをしていたその頃。
凸ポン号のliangは白狼とケントから送られてくるデータから、ある一つの結論に到達しようとしていた。
「これはスラスターの暴走じゃない……補助システムのバグでパラメータが地上戦用のになっているのか。中途半端な朦朧状態に陥っているからおそらく接近するものに対して正確な認識ができない。下手をすると無意識で撃たれるな……厄介だぞこれは」


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