悪童同盟 掲示板
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  [No.1220] 暗躍 投稿者:よっきー  投稿日:2008/08/02(Sat) 21:46:01

ついでにもう一本。PCが出てこないのは仕様。

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 ここは悪童同盟某所。時は折しも一周年記念祭開催の当日であった。
薄暗い室内にまばゆく光る液晶モニターが一つ。
その眼前には室内であるにもかかわらずサングラスをかけ、
さらに黒いスーツに黒い帽子といった出で立ちの痩せぎすの男が腰掛けていた。

「くそっ、電子経路は全部アウトか……肝心なところは全てスタンドアロンで組んで居やがるのか?
セキュリティ技術自体は大したことないレベルだが……」
毒づく男。
モニターに移るのは悪童同盟で開発された核兵器について一般公開されている範囲の資料と、
政庁内データベースで核兵器についてより詳細に調べ上げようとした結果──
すなわち、Data Not Found の文字であった。

 そう。彼こそは某組織が核兵器の力を我が物にせんと送り込んだエージェント。
そのリーダーである彼のコードネームは『アルファ』といった。
あわよくば情報ネットワークからその設計図情報を手に入れんとする試みは失敗したが、
この程度は多少の心得がある相手であれば当然のこと。落胆などはしない。
既に彼の部下は別方面での活動を開始しており、その経過報告がもうすぐ届けられるはずだった。

 焦ることは無い、核も情報も逃げはしない……と呟くや、葉巻を取り出し火をつける。
その半分ほどが灰になった頃、変則的なリズムのノック音が訪れた。
エージェント同士で意思疎通を図る際に使われる符丁だ。
例えば敵に捕まり連れて来られたときなどはこのリズムの変化で状況を察知できる。
もっとも今回は異常なしという内容のものであったが。

 ノックが終わってかっきり15秒後。
ドアを押し開けて入ってきたのは同じく黒ずくめの、こちらは小太りの男だった。
その表情に汗が浮かんでいるように見えるのは砂漠の暑さゆえか。
そんなことは気にも留めず、アルファが問いかける。
「報告を聞こうか、ブラボー」

「は、それが……」
ブラボーと呼ばれた男がおずおずと口を開く。
歯切れの悪い返答からは活動の結果が芳しくなかったと容易に見て取れた。
「やはり、警戒が厳重で近づけなかったか。無理も無いが……」
これもアルファにとっては予想内の事態ではあった。
ブラボーには弾薬庫に格納されているはずの核弾頭を奪取するため監視状況を調べさせていたが、
いくら今日が記念祭の開催日とはいえ、核兵器の管理を甘くするほど間抜けではなかろう。
これ以上のチャンスを作るとなればリスクを承知で破壊工作による陽動か……
などと一瞬のうちにめぐらせた考えが次の瞬間に霧散する。

「いえ、それが逆なのです。むしろ核弾頭のある弾薬庫には容易に近づくことが出来ました。
ですが、そこはもぬけのからだったのです……まるであの宣言が事実だったかのように!」
「なんだと……ばかな!」
あの宣言とは、記念祭開催演説で行われた悪童屋・四季による核兵器の封印宣言である。
国内にある全ての核兵器及びそれに関するデータを破棄。
関連施設についても平和利用に転用できるものを除いて完全凍結と言うものであった。

 常識的に考えてありえない選択だ。軍事とて経済活動の一環。
そして経済と言うものは常に拡大することでその構造を維持するものだ。
その中で核兵器と言う切り札の一枚を自ら捨て札にすることは勝負を投げるようなもの。
それゆえ宣言自体は国民の支持を集めるためのパフォーマンスに過ぎず、
実態としてはいつでも持ち出せるように弾薬庫にシールを一枚貼る程度の封印に違いない
というのが周囲の一般的な見解であった。

 もちろんそう考えたのはアルファらも同じ。だからこそブラボーを派遣したのだが……
「ダミーの弾薬庫だったという可能性は?」
「ありません。先日の防衛戦で持ち帰られた量を考えれば他の場所では格納し切れません。
仮に分散させたとしてもあそこに一発も残っていないというのは不自然です。
容量のみ考えるなら王城地下にあるという基地には格納できるかもしれませんが……」
「それはない、な。」
ブラボーも肯く。自らの足元に核爆弾を置いていたいとは誰も思わないだろうし、
政治中枢が一人の工作員に消滅させられる危険性を考えれば心情的な問題だけでもない。

 国内のどこかに設置されているであろうミサイルサイロの付近とも考えられたが、
現在の悪童同盟にサイロの中におさまるべき長距離ミサイルは存在しない。
ボタン一つで目標へ飛んでいく報復用ミサイルであれば分散して格納することに多少の意義もあろうが、
ミサイルの無い現状ではそのようなところに保管しても奪取される危険性が増すだけである。

 その他いくつかの候補も予備調査のデータなどからは否定材料しか出てこなかった。
「つまり、弾頭奪取の線は消えたと言うことか……」
憎憎しげに呟くアルファ。もとより弾頭を奪うのはリスクの高い方法であった。
だが実物を入手できれば資料としてはこれ以上無いものだ。多少のリスクを負う価値はある。
しかしそれとてある程度確実な成算があってこそのことだ。
対象物の所在が手がかりすら分からないような状態でできるような作戦ではなかった。

「データ入手のほうは……いえ、となると残る手段は」
ブラボーが質問しかけてその内容を変える。
データの入手が首尾よく進んでいたならばアルファが実物にこだわる必要もないことに気づいたのだ。
「技術者の確保、ということになるな……」
電子データが無くとも技術者を手に入れられれば断片的にでも情報を入手できる。
もちろんその手段は金銭による買収から実力による拉致まで、問われることはない。
その時アルファの懐から有名なクラシックのメロディーが鳴り出した。
携帯電話の通知はそれがチャーリー──王都周辺の情報収集を命じた第三のエージェントからのものであると告げていた。

「こちらアルファ。首尾はどうだ?」
無造作に問いかけているが、電話に内蔵された暗号化装置によって音声データは変換されており、
通常の傍受では単なる世間話にしか聞こえない仕掛けになっている。その分音質は低下するのだが。
「ターゲットはバザール周辺にいるが、特に護衛などはついていないようだ。
あと、詳細は不明だが我々とは別のどこかの組織が一斉に検挙された。
事件自体を内密にしているようだが、特定エネルギー資源に関するものだと言う噂が政庁内で……」

 そこまで聞いて、アルファの脳裡に閃くものがあった。
いままでばらばらだった情報のラインが一つに纏まってゆくのを感じる。
「そうか、これは罠だ!」
「罠……ですと!?」
「規定の連絡ラインで全エージェントに通達。各自120分以内に出国、離脱する!」
それだけ言うとアルファは一方的に電話を切った。

 怪訝そうな顔でブラボーが尋ねる。
「罠とは、どういうことです?」
「いいか、考えても見ろ。強大な力を持ったものはそれを独占しようとするものだ」
「だから我々が動いてその秘密を……」
「その思考こそが奴らに読まれているのだ!
奴らは核の封印宣言という目くらましを用いて我々の情報入手ルートを制限する。
そこでバザール内に技術者と言うエサをばら撒いて引っかかった敵を釣り上げ、
そこから芋づる式に組織を壊滅へと追い込む……
残るのは奴らに騙された民衆と利害の一致する組織だけと言うわけだ」
「なんと……」
「今は核の技術よりも我々の存在を察知されないことが優先される。
ここをかぎつけられる前に脱出するぞ!」
「は、はい!」

こうして、人知れず一つの秘密組織がこの地から姿を消すこととなった。
はたしてこの結果が誰かによって意図されたものだったのか、それともただの偶然か……
それは神のみぞ知るところである。


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