●海軍兵站システム
当初、悪童同盟の港は、あくまで燃料の輸出入に必要な貿易港だと思われていた。
実際、燃料生産地が完成する前から居並ぶタンカーはその空気を出していたし、悪童屋も風評を否定しようとはしなかった。
だが、それは答えを言っていないだけで正解でもなかった。
インフラを整備し、街道を拡充し、さらに倉庫が並びデリックが立ち。
港に設備がそろい全景が見え始めた頃、人々は怪訝な顔で港を見ていた。
違う。どう見ても普通の貿易港ではない。
なんで補給艦が並んでいる? なんで兵隊が出入りしている? なんでキープアウトがある?
数々の疑問と一緒に、港には明らかに生活物資ではない食料や衣類、武器弾薬などのコンテナが山積みになっていた。
そして殺到する疑念に対し、藩王は後日、事もなげに答える。
『あん? ここは最初から軍事拠点だぜ。後方支援っていう大事な仕事のためのな』
まぁこの藩王が金儲けのためだけに何かするなんて嘘臭いわな、とはとある国民の弁。
何はともあれ。戦乱の渦おさまらぬニューワールドに、小さな国力で最大限介入しようと決意した藩王は、戦場において最も軽視できないファクターに手をつけた。しかも大多数の国民がついてこられないような速度で。
『腹が減っては戦はできぬ――ならば、腹さえ握れば戦は勝てる』
弱者には弱者の戦争がある。悪童屋はいつだって攻撃的なのだ。
海軍兵站システムの仕事は単純だ。
海路を使い、必要な物資を必要な場所に届ける。それだけ。
現地との密な連絡、現場の声をくみ上げるシステム、要求に耐えうるだけの生産力、それらを捌く実務能力。
取り扱う物資も、武器、弾薬、衣類、食料、備品、その他諸々エトセトラと多岐にわたる。
艦船や人員の出入りも激しく、施設に限らず膨大な兵站業務全般を取り仕切っているココは、もう一つの激戦場とも言える。
銃火の飛び交う場所だけが現場なのではない。
後方支援が行き届かない戦争は必ず負ける。
悪童屋の薫陶によってその常識を叩き込まれた作業者達は、戦場から遠いからと言って気を抜くことなく今日も職務に従事している。
必ず勝つと決意した悪童屋の意思は、システムの隅々に行き渡っているのだ。
その影にある、同胞を一人でも多く守ろうという悪童屋の情には誰も触れない。
そういう当たり前の気恥ずかしい話は、胸の内に秘めるものだと言われるからだ。
なお、だって藩王照れ屋だもんな、と言った国民はやはりいつもの如く殴られたらしい。
なんだかんだで悪童同盟は今日も平和だ。