*改造歩兵用ウォードレス「白狼」の開発 [#s20e8bd2]

改造歩兵専用ウォードレス「白狼(ビャクロウ)」

&photo(http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/1265697690.JPG,http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/s/1265697690.jpg);&photo(http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/1265991932.JPG,http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/s/1265991932.jpg);



白狼は涼州藩国の技術の粋を投入した改造歩兵専用の強襲型ウォードレスであり、
ごくごく一部のエリート部隊員のみに専用品として与えられる高性能機である。
ただでさえポテンシャルの高い改造歩兵をさらに強化する能力を人間サイズに詰め込んだために
非常に高い生産運用コストと継戦能力の低さ、巨大化した武器の輸送コスト増大などがネックとなっているが、
それを補って余りある戦闘能力を特に屋内・市街戦において発揮する。

当初は空挺降下などを含む地上戦を主眼に置いて開発されていたが、
減速用内蔵ロケットモータの存在や、生命維持コストが低い改造歩兵の特性などから
最小限の改修で宇宙戦にも対応しうることが判明したため宇宙戦用装備も多数追加開発された。

なお、WDの呼称「ビャクロウ=白狼(はくろう)」とは、妖怪とも風神・山神ともされる幻想存在の一つ。
悪童同盟の制式採用機につけられる「白」の字と、ヲチ藩国歩兵伝統の犬に関した名称を両採用した、
いわば二国の技術結集の象徴ともいえる名前がつけられている。

#region(基本構造)

&photo(http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/1265813886.JPG,http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/s/1265813886.jpg);


このWDは、固定兵装を持たず、兵装を交換することで高い汎用性を有する。
また、特殊な運用思想から後述する独特のシステムを備える。
1、基本フレーム
2、複合式装甲システム
3、多目的情報支援システム
4、機動戦闘用ブースターシステム

:基本フレーム
人工筋肉・電子機器・情報支援システムを搭載するWDの基礎となるパーツ。
高性能機の開発という目的の為に、最新の技術と最新の素材が惜しみなく用いられている。
非装甲型のWDに酷似したシステムを持つが、あくまでもWDを構成するパーツの一つという扱いであり、基本フレームのみでの運用は想定されていない。
サイボーグ兵士である改造歩兵と相性が良い、サイバネティックス技術を応用した高精度の機械駆動式人工筋肉を採用しており、従来のWDを遥かに凌ぐ動作精度を得ている。
さらに、改造歩兵の高い耐久力を鑑み、着用者に対する大きな負荷を許容することで、稼働時間が従来のWDに比べ若干短くなったものの、出力と装備重量を大幅に強化することに成功している。
ただし、成熟度が不十分な新技術と高精度の部品を多用していることから、運用コストと整備の手間がかかり、完全な性能を発揮する為には兵站によるサポートが欠かせない。

:外付け式装甲モジュール
外付け式のため損傷箇所を交換するだけで修理することができるため補修が容易で、分解しての整備・保管・輸送が可能。
これにより、交戦により装甲が破損しても基本フレームが無事である限り装甲を交換するだけで戦列に復帰することが可能となるため、数と整備性に劣る白狼の稼働率向上に役立っている。

主な装甲は、涼州藩国最先端の材料工学・材料力学を駆使して開発された、セラミックを主軸とする複合装甲で、重量比で従来のI=Dの装甲を上回る性能を持つ軽量で堅牢な新装甲である。
装甲システムとしての性能は、全方位からの12.7mm口径以下の銃弾と砲弾破片を食い止め、正面装甲は30mmの直撃を防ぐほどの防御力を持つ。
(もちろん30mm砲の直撃を食らえば、装甲を貫通しないだけで衝撃は緩和しきれないため、致命傷は避けられるとしても被害は免れ得ない)
しかし、非常に高価で、必要な装甲の総面積が大きいI=Dや、大量に生産・運用されることが前提となる通常のWDに使用するには、コストの問題から生産ラインを維持できないため現状では適さない。

:多目的情報支援システム
改造歩兵のブレイン・マシン・インターフェースを介して着用者とリンクすることにより、WDや着用者のコンディションや残弾数のカウントなどのチェック作業を代行し、着用者を支援するシステム。
使用者の個人識別や無線通信の暗号化など、セキュリティに関わる機能もこのシステムが請け負っている。
FCSとの連動によって照準を行う機能も過去には実装されたが、模擬戦闘訓練において「一定以上の技量の相手には逆に予測されやすい」という欠点が発覚したため撤廃された。

:機動戦闘用ブースターシステム
WD用に小型化・軽量化を実現した特殊なロケットエンジン式ブースター。
このエンジンはWDへの搭載を前提とした低出力低燃費の新機軸エンジンで、コンピュータ制御された偏向ノズルの採用と合わせて重WDによる高度な3次元戦闘を実現するべく作られた。
運動性能の向上と運用時間に特化しており、使い捨てで長距離を移動するリテルゴルロケット等とは運用思想が異なっている。
その他宇宙空間における機動や後述するグライディング・シールドとの連携など、白狼の運用において大きな意味を持つシステムである。

出力が小さい為飛行するほどの推力は得られないが、応答性が非常に高いため短距離走や跳躍の際に用いることで直線的ながらも従来のWDを凌駕する驚異的な速力と運動性能を得ることができる。
一部の熟練者は腕部に装備されているアンカーワイヤー発射装置と併用することで無理やり軌道変更を行うことがあるが、ワイヤーの耐久性から考えると非常に危険な行為であるといえる。

被弾リスクおよび重量負荷を考慮して搭載燃料は最低限に抑えているが、帝國最先端を自負する材料工学・力学と燃料精製技術を武器に、燃料消費を抑えて実用レベルの使用時間を実現した。
ただし、出力が小さいといえども加速時に発生する負荷は強力で、最大出力時には改造歩兵でなければ耐え切れないほどのGが発生する。
さらには一定時間以上の連続稼働を行うとブースターの発する熱などでWD自体にもダメージが出てしまうなど問題も多く残されている。


#endregion

#region(武装)

&photo(http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/1265468819.JPG,http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/s/1265468819.jpg);

白狼の武装はインビジブル・ハウンドのものをそのまま利用可能だが、その運用性質からは継戦能力よりも火力を重視すべきというのが一般的な見方である。
そのため、さらに大型・大火力化を進めた専用の火器をメインウェポンとして携行し、サブウェポンは信頼性の観点から既存のものを使うといった組み合わせが多い。
以下に白狼用武装のうち、特徴的なものをいくつか紹介する。

1、120mm携行ロケット砲
2、ハイ・レーザーライフル
3、白兵用高速振動刀
4、グライディング・シールド


:120mm携行ロケット砲
白狼の運用する火器の中でも最大のサイズを誇るため、シンボル的に扱われることも多い武装。
無反動砲であることからゼロG環境下でも使用に支障をきたさないため、汎用的に用いられる。
砲身・弾薬ともに小型I=D用のラインを流用して作成されているため、コストが抑えられていることも広く使われている一因である。

その巨体が表す通りの威力を持ち、軽装甲のI=Dや戦車、建造物を目標として充分な打撃を与えられるようになっている。
一方で、一定以下の距離では弾頭の充分な加速が得られず本来の威力を発揮できない上、着弾までに時間がかかるなどの弱点もある。
そのため、砲台などの固定目標への攻撃や起動前の車両などに対する奇襲時に最大の効果を発揮する。

信頼性・威力の点から使用者からの評価は高いものの、あまりにもサイズや重量がかさむために
戦闘の序盤でめぼしい装甲目標に対して撃ちつくし、そのまま放棄されることも多い。

:ハイ・レーザーライフル

涼州藩国が独力で開発に成功した携行型レーザー砲。
改造歩兵用装備として開発が進められていたレーザー兵器をさらに強化した上で実用化したもので、主用火器の一つで、「TLAS−HLR1」という型式番号が与えられている。
通常の歩兵でも扱える普及型を目指して開発が進められている光学兵器「レーザーライフル」とは発想が異なる為、区別して「ハイ・レーザーライフル」と呼称されることになっている。
白狼での使用を前提に、主に重量負荷を受け入れることで軽巡洋艦の副砲に相当する強力な出力と大気圏内における1000mの有効射程を実現し、遠・中距離戦装備として採用された。

大きめの歩兵銃の様な形状をした所謂レーザーライフルであり、取替えの容易なカートリッジ式のエネルギーセルから必要な電力を得る構造となっている。
装甲貫通力に優れるが、突撃ライフルや機銃のような弾幕を展開するような使用には不向きで、全長も長めなことから接近戦での取り回しには劣る。
着弾点の誤差と着弾時間の誤差がほぼ存在せず回避や防御が非常に困難であるため、中距離のみならず遠距離での射撃戦にも適するとされた。
ただし、大気圏内では1000mを超えると急激に減衰し威力が低下してしまう上に、雨や砂埃・煙などによっても減衰されるため実際には中距離戦用として扱われる。

実体弾兵器と違い跳弾が発生せず瞬間的な出力の調整も可能なため、人質救出などの繊細を要する作戦を行う際には優先的に使用される。
また宇宙においては、これを装備した白狼が即席の対空銃座として運用されることもたびたびあったという。

:白兵用高速振動刀
刃渡り60cm程度の本格的な刀剣で、斬撃・刺突共に適した日本刀に近い形状をしているが、日本刀のような鋭利な刃はついていない。
刃の代わりに目に見えないほどの高速振動機構を持つことで対象の切断を行う高速振動剣。
特殊な高硬度鋼で製造されており、重WDや軽I=Dの装甲、あるいはコンクリート壁を豆腐のごとく切断できるほどの貫通力と切れ味を持つ。

特殊な高硬度鋼で製造されており、扱いやすい長さと計算された重量バランスは白兵戦で有利に働き、携行性にも優れる。
また、日本刀に酷似した形状から、剣術や剣道といった武術・武道の技術を応用することが可能。
なお、開発者は、改造歩兵の動体視力と反射神経にWDで強化された動作精度を持ってすれば飛来する銃弾すら切り払うことができると豪語しているが、実践しようとしたものは誰もいない。

:グライディング・シールド

空挺降下の際に使用される小型グライダーで、着地後にはそのまま地面に突き刺して遮蔽物(すなわち盾)として使用されることが多いためこの名がついた。
白夜号・白篭号で培ったステルス性能を有し、乗員はその上に屈み込むような姿勢で乗り込むことでレーダーから隠蔽される。
このステルス性とパラシュートとは比較にならない機動性で安全かつ精度の高い降下を実現する。

構造としてエンジンを持たない完全なグライダーではあるが、白狼本体のブースターシステムを併用することで一時的な飛行も可能である。
またその素材は白狼の装甲システムほどではないが軽量かつ強靭で、特に機首は床面に突き刺す前提で鋭く強固に作られている。
上面にはグライダーを保持するための取っ手のほか、大型武器を固定するためのハードポイントなどが取り付けられており、機首方向にであれば発射も可能である。
(ただし武器の種類によっては反動で大きくバランスを崩すため注意が必要である)

運用としては、上空からの狙撃で見張り等を無力化してから着地潜入するサイレントエントリーと、
上空からのトップアタックで大物や対空砲台を仕留めてから着地掃討するダイナミックエントリーの二種類に大別される。
いずれにせよ気づかれないうちにどれだけ接近し、相手が対応できない間に被害を与えることができるかが勝負となる。

開発者から一言:「立ち乗りは確かにかっこいいですが危ないのでやめてください。お願いします」

#endregion


#region(開発秘話)

&photo(http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/1266413493.JPG,http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/s/1266413493.jpg);

 ニューワールド上空3万数千キロ。静止軌道を大きな丸い物体が漂っていた。
その名は凸ポン号。ヲチ藩国にて開発された打ち上げ機で、今では涼州藩国の宇宙実験を一手に担っている老兵である。
型式こそ古いものの、積み上げられたノウハウによる信頼性は厚く、可愛らしいフォルムともあいまってその人気はいまだ衰えていない。

 その凸ポン号のハッチから出てきた物体が二つ。大小サイズの違う人型であった。
大きいほうの人型はわんわん帝國制式採用I=Dのケント。空間戦対応機としては最古参の部類に入る第二世代I=Dである。
そして小さいほうが白狼。現在涼州藩国で開発中の最新型WDで、今まさに空間戦用の調整を終えてテストを開始せんとするところであった。

「あーあー、テステステス。NEKOBITOさん、よっきーさん、聞こえてますか?」
凸ポン号のメインモニター前でマイクに向かって声を上げているのはliang。白狼の開発チーフだ。
彼の前には何枚ものスクリーンウィンドウが開き、白狼の動作データとその装着者であるNEKOBITOのライフデータが流れている。
現在のところデータはオールグリーン。心拍のみ閾値に近づきつつあるのはテストへの緊張か、それとも宇宙空間の感覚に戸惑っているのか。
いずれにせよliangはテスト開始に支障なしと判断し、最初のスイッチを押した。

「いいですか。これから隕石型のダミーバルーンを射出します。それを回収して戻ってきてください」
「あい、さー」
返事があるや否や、発射管に装填されたバルーンが射出され、内部のガス圧で自動的に膨張する。
針金の骨組みによって遠めには隕石と見分けのつかないそれを追って、スラスターを噴かした白狼がすべるように動き始めた。
簡単そうに見えるテストではあるが、スラスターや人工筋肉の精度と反応速度を測るには十分な内容であるし、
宇宙空間では少しの事故がきっかけで死ぬまで宇宙をさまよい続けなければならない危険もあるのだ。
最初から限界まで振り回すような無茶をさせるわけにはいかないということでこのテストとなったのである。

 白狼が動き出すと、それを追うようにしてよっきーのケントも動き始めた。
こちらは万一の事故のときのためにフォロー役として追随しているのだが、それでも万全とはいえないのが宇宙というフィールドの恐ろしさである。
もしも白狼に装備された5機のスラスターが同時に暴走でも始めたら、質量のせいで出足の遅いケントでは見失ってしまう可能性が充分にある。
仮に追いつけたとしても地球の重力につかまってしまえば、大気圏突入能力のない白狼やケントは一巻の終わりなのだ。
何度地上でのテストやシミュレーションを繰り返し万全を期してきたといえども、
その事実はこの場にいる全員の腹の底に冷たい錘として引っかかっているのであった。

 その不安が現実となったのはそれから40分ほどたった後、兵装試験のさなかのことである。
後にハイ・レーザーライフルと呼ばれることになる得物を構え、NEKOBITOは標的である古い装甲板に狙いをつけると、凸ポン号に最終確認を送った。
「TLAS−XHLR、射撃試験準備オーケーです。開始タイミングください」
「こちらケント。周辺領域クリア。射線上クリア。問題なし」
「了解。それでは開始、お願いします」
「あい、さー。カートリッジロード。ファイア!」
一条の閃光が銃口から放たれると、分厚い装甲板にはまるで錐で紙を突き通すかのように一瞬で穴が開き、遅れて蒸発した装甲剤の反動でくるくると回りだした。
その期待通りの威力に歓声を上げようとしたliangが耳にしたのは、だがしかしNEKOBITOの悲鳴であった。


&photo(http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/1266413632.JPG,http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/s/1266413632.jpg);

「にゃああぁぁぁっ!?目が、目が回るるるる……」
「どうしたんですか、NEKOBITOさん!よっきーさんフォローを!」
「もう動いてる!でもスラスターが暴走したみたいでクルクル回りながら吹っ飛んでるから軌道の予測がつかない……こりゃ掴まえるのには手間取るぞ」
「パターン予測はこっちで作りますから今はとにかく見失わないように!NEKOBITOさんも自力でリカバーできませんか?」
だがその呼びかけにも、NEKOBITOから返事の帰ってくる様子はない。
liangは素早く各種のデータを一睨みすると、コンソールに指を滑らせ矢継ぎ早に指示を開始した。

(いくら目を回しているだけ、と言ってもなぁ……)
liangからNEKOBITOがひとまず無事であることを告げられたよっきーだが、その表情はいまだ厳しい。
そもそも肉体を強化した改造歩兵とはいえ、その脳は生身のものである。これ以上の遠心力で振りまわされれば脳にどんなダメージがあるか知れたものではない。
(ここはNEKOBITO君には悪いが、強引に機体をぶつけてでも動きを止めないといけないな……)
などと考えて機体を急加速させようとしたその時。
突然脳裏に危険信号がフラッシュした。反射的に機体を緊急回避に入らせると遅れてコックピットのアラートが点滅する。
次の瞬間、先ほどまでケントの機体があった場所を超高出力のレーザーが横薙ぎにし、右の足首から先がごっそりと溶断されていた。
「うへ、ぇ。こんな予告なしレーザーかいくぐって飛び込めっての?どんな無理ゲー……」
連射の効かないレーザーとは言え、捕捉に手間取っているうちに至近距離から撃たれる可能性は充分にありうる。今は距離をおいて安全圏から追跡を続けるしかなかった。

 ケントのコクピットでよっきーがほぞを噛む思いをしていたその頃。
凸ポン号のliangは白狼とケントから送られてくるデータから、ある一つの結論に到達しようとしていた。
「なるほど。これはスラスターの暴走じゃなくて、補助システムのバグでパラメータが地上戦用になっている、と。
装着者側もあの回転で朦朧状態に陥っているからおそらく接近するものに対して正確な認識ができないはずですし……
下手をすると無意識で撃たれるかもしれないけど、これは逆にチャンスかも。よし!」
liangはよっきーに対して2つ3つ指示を飛ばすと、その結果と予測を照らし合わせた。
結果は96.4%の確率で合致。思わず安堵のため息が漏れる。
完全な暴走でなければどこかで必ず負のフィードバックが働くため、Gなどによる生体部への致命的な損傷を受けることはまずないからだ。

 この段階で残る大きな問題は2つ。
まず一つは、如何にレーザーを回避して白狼に接近し掴まえるか。
これは白狼の状況が判明したことで射撃を誘発することができるようになり、チャージの隙を突ける分だけ楽にはなった。
だが残る問題が大きく立ちはだかる。
それは凸ポン号に残された燃料……推進剤の残量であった。
宇宙空間ではどのような機動を取るにも推進剤を必要とする、絶対と言える法則がある。
 レーザー射撃を誘発するのが回避行動の取れるケントの役目であるならば白狼を掴まえるのは残った凸ポン号の役目だ。
だが凸ポン号に残された燃料では、先行する白狼やケントに追い付くための減速を行った後でチャージの隙を突いて接近できるほどの加速を行った場合、
残された燃料では地上への帰還軌道に乗ることができない。
そうなれば無理に大気圏へ突入して燃え尽きるかあるいは酸素がなくなるまで軌道を回り続けるか……


 何度も計算を繰り返し、行き詰りを感じ始めたliangはいったん席を立ち、体をぐるりと回して大きく深呼吸をした。
その最中、ふと端のほうに追いやられていた積載物リストが目に入る。
リストに記載されたあるものに大きく目を見開くと、次の瞬間から脳細胞がフル回転を始め、即座にある仮説が組みあがる。
その仮説をもとに幾度かの検算を繰り返し、その顔に浮かんだのは、覚悟を決めた漢の笑みであった。
liangは行動予定をまとめると、凸ポン号の全クルーおよびケントのよっきーへと送信した。

 その行動予定を見た全員がliangの正気を一瞬たりとも疑ったのは当然のことであったが、
だがしかしこれ以外の方法が現状で見つからないのもまた彼らにとっては厳然たる事実であったから、反対する者はだれもいなかった。
沈黙を破り、よっきーが問う。
「あー、なんだ。これで上手く行くという自信は、当然あるわけだよね?」
「勿論です。そしてこれを成し遂げられられるのは私をおいて他にないという自信も」
「それもそうか……わかった。許可するよ。こちらも全力でバックアップする」
「ありがとうございます。では総員、先ほどの計画通りにお願いします!」
言うや否や、liangは席を蹴ってコックピットを後にした。
緊張が支配するコックピットに、カウントアップするタイマーだけが変わらずその単調な仕事を続けている……

「さて、じゃあこちらは猟犬役と行きますか……?」
軌道上で凸ポン号に先行する形になっている白狼とケント。
こちらに追い付こうと減速を開始した凸ポン号を見て、よっきーがケントの120mm砲、通称ランスを構える。
そして射撃。即座に回避運動を取って反撃のレーザーをやりすごすと、増速して弾丸を回避する姿が確認できた。
(やはり読み通りだな……ならば!)
続けて二射・三射と発射し高軌道へと追い込むことで角速度を失わせ、凸ポン号との距離を縮める。
それこそが猟犬の役割であり、それはまさに今果たされようとしていた。
ランスを撃ち終えたケントの直下で凸ポン号のハッチが開く……

 凸ポン号のハッチから出てきたのは大きな盾を構えた一機のウォードレスであった。
一見するとその姿は白狼のようにも見えるが、背中に大きく張り出した二つのブースターを始めとしたいくつかの違いがある。
その名を『&ruby(ぐひん){狗賓};』という。
天狗の一種の名を頂いた、改造歩兵用WDのなかでも最初期に作られた実験機であり、
その名の通りの高機動性を追求して作られて遺憾なくその要求に応えながらも、余りの扱いの難しさに採用されなかった悲劇の機体である。
そして今それを装着するのは狗賓を自ら開発しながら不採用の決定を下したliangその人であった。
狗賓は滑るようにハッチから外へ出ると、盾に寝そべるようにしてから軽くスラスターをふかして所定の位置についた。





 そして作戦開始時間。最初に動いたのはケントであった。
手持ちのランスを振りかぶり、白狼に向けて加速しながら投げつける。
瞬時に反応した白狼がレーザーライフルを射撃。飛来するランスを迎撃すると、弾倉に残っていた弾薬が誘爆し即席の煙幕となった。
その瞬間、凸ポン号がそのエンジンをオフから一気に全力運転へ。
その噴射炎が所定の位置……すなわち凸ポン号のエンジン直前に位置していた狗賓へと浴びせられ、猛烈な勢いで盾ごと狗賓を高軌道へと押し上げる。
続いて狗賓も自らの持つブースターを点火。限界を超えた加速力で煙幕へと突入した。

 一方、煙幕の向こうではケントが残された射撃武器である対人機関銃で涙ぐましいともいえる牽制を行っていた。
だがその効果があったのも束の間、チャージの完了したハイ=レーザーライフルの銃口がケントのコクピットに狙いをつけ、
次の瞬間煙幕を突き破って表れた狗賓の盾へと再照準。その破壊的なエネルギーを解放した。
レーザー光は凸ポン号のエンジンにすら耐えた盾を容易く貫通し、その背後の煙幕すら吹き散らした。
が。
そこに狗賓の姿はない。

 狗賓は今や白狼やケントよりさらに高い軌道にまで上昇していた。
ハイ=レーザーライフルの高エネルギーによりほんの僅かだけセンサーに空白ができる隙を狙い、大きく迂回して後ろを取ったのだ。
そして一転。今度は急降下をかける。
その手に光るのは高速振動刀。『&ruby(死を忘れるな){メメント・モリ};』の文字を刻んだ逸品だ。
慌てて振り返ろうとする白狼よりも迅く斬撃が走り、ハイ=レーザーライフルの銃身を斜めに切断する。
その回転力を利用して側頭部へと蹴りを叩きこみ、NEKOBITOの残っていた意識を刈り取るとともにケントの方へと吹き飛ばした。
くるくると回転を続けるその体をケントの手が鷲掴みにすると、スラスターの安全装置が働き白狼はその動きを止めた。

「終わった……のかな?」
ケントのコクピット内でひとまず安堵するよっきー。凸ポン号からも通信で歓声が聞こえてくる。
「成功ですね。あとは凸ポン号とランデブーして、地上へ帰還するだけですよ」
こちらは接触通信で、liang。流石に疲労の色は隠せず声は荒いが、こちらも嬉しさに声が弾んでいた。
「シールドの残骸もあの軌道だと大気圏に突入して燃え尽きそうだしね。ところで……」
「なんかすごい勢いでアタマ蹴られてたけど、NEKOBITOくん……生きてる?」
「え?」
一瞬の沈黙。あわてて計器を確認するliang。
「あ、はははー。当然じゃないですかほらバイタルも正常だし。計算通り計算通り」
「で、ですよねー。あ、はは……HAHAHAHAHAHA」

----

「と、言うようなことがあったらしいんですよー」
所と場所は変わって。一週間後の涼州藩国王城の食堂。ゆうみとテノレが茶飲み話に花を咲かせていた。
「大変だったみたいねえ」
と、そこに通りかかるod。手にはマグカップを持っていてコーヒーの追加を取りに来たようだ。
それを目ざとく見つけて、コーヒーメーカーを操作するodの背後に忍び寄り、大きな声で脅かしてみる。
「うぇ!?……ああ、なんだ貴方達ですか」
「そうでーす。白狼の宇宙試験、大変だったんですってねー」
「ああ。あの時は私も地上からサポートしてましたが……どこでその話を?」
「ちょっと小耳に。いやーでもレーザーライフルの中をかいくぐってとか、よく大丈夫でしたねぇ」
「え?」
小首をかしげるod。しばらく考えてあることに思い至ったのか、悪戯じみた顔で話しだした。

「ああ、もしかして。liangさんが狗賓で無謀な突撃を……ってやつですか?」
「そうそう、それですよ!」
ふふ、と笑みを浮かべるod。
「あのですね。それは多分、白狼の開発ドキュメンタリー風アニメを作ろうって言ってよっきーさんが書いた脚本ですよ?」
「「え、ええーっ!?」
「確かに射撃試験の時にバグが発生したのは事実ですけど、そんな大げさに暴走してはいないですし、
 そもそも開発途中の武器を試験するのにそんな何十発分もエネルギーは入れておきませんよ」
「そうなんですかー」
しょんぼりと肩を落とす二人。
タイミングを合わせたかのようにコーヒーメーカーの電子音が鳴り響いた。
「じゃあ私はまだ仕事が残ってますのでこれで」
「はーい」

「さてと。バグ取りにパラメータ調整に再試験、まだやることは多すぎるなあ……
 よっきーさんもストレス解消はいいけどあまり変な所に力入れすぎないで欲しいんだけど。ふぅ」
白狼のロールアウトはまだ遠く、王城の廊下にコーヒーをすする音が空しく響いていた。


&photo(http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/1265729203.JPG,http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/s/1265729203.jpg);



#endregion


RIGHT:(文:liang、よっきー)
RIGHT:(絵:NEKOBITO、ゆうみ)

※注:画像はクリックで拡大版が表示されます。また上記の[+]をクリックで項目が展開されます。

----



:派生元のアイドレス|高位北国人+工兵+戦闘工兵+改造歩兵
:派生先のアイドレス|なし


L:改造歩兵用ウォードレスの開発 = {
 t:名称 = 改造歩兵用ウォードレスの開発(イベント)
 t:要点 = {
  一般性能要求:かねてから技術を向上させていた涼州は、改造歩兵の高い戦闘力に対応したウォードレスを独自生産することになった。人間を逸脱した大型武器を装備可能であり、装甲もかなりの強化が図られているが、輸送にはそれなりの苦労がともなった
 }
 t:周辺環境 = 涼州
 t:評価 = なし
 t:特殊 = {
  *改造歩兵用ウォードレスの開発のイベントカテゴリ = ,,,藩国イベント。
  *改造歩兵用ウォードレスの開発の位置づけ = ,,,生産イベント。
  *改造歩兵用ウォードレスの開発の内容 = ,,,このイベントを取得した国は、その国用の改造歩兵用ウォードレス(ウォードレス)を作成できる。作成したものにあわせてアイドレスが作成、公布される。
 }
 t:→次のアイドレス = なし
}

----

&Color(red){※};HQ継承なし
&Color(red){※};[[HQ取得>http://p.ag.etr.ac/cwtg.jp/syousyo/3168]]により全能力+1

L:白狼 = {
 t:名称 = 白狼(ウォードレス)
 t:評価 = 全能力+7
 t:特殊 = {
  *白狼のアイテムカテゴリ = 着用型アイテム。
  *白狼の位置づけ = ウォードレス。
  *白狼の着用箇所 = 全身に着用するもの。
  *白狼の着用資格 = 着用可能(ウォードレス)、みなし職業(改造歩兵)。
  *白狼のみなし職業 = <歩兵>。
  *白狼の人機数 = 3人機。
  *白狼のアタックランク = AR13。
  *白狼の参加時食糧消費 = (戦闘参加時)、食料−2万t。
  *白狼の白兵距離戦闘行為補正 = 白兵距離戦闘行為,,条件発動,(白兵距離での)攻撃、評価+3。
  *白狼の近距離戦闘行為補正 = 近距離戦闘行為,,条件発動,(近距離での)攻撃、評価+3。
  *白狼の中距離戦闘行為補正 = 中距離戦闘行為,,条件発動,(中距離での)攻撃、評価+2。
  *白狼の遠距離戦闘行為補正 = 遠距離戦闘行為,,条件発動,(遠距離での)攻撃、評価+2。
 }
 t:→次のアイドレス = 大型改造歩兵(職業),無人改造歩兵(アイテム),改造歩兵特殊部隊(組織),無人偵察機(アイテム)



トップ   編集 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS