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  [No.886] 改造歩兵用WD作業枝 その2 投稿者:ゆうみ  投稿日:2010/02/10(Wed) 00:17:21

前ツリーが長いのでたてなおします。

前ツリー
http://www.cano-lab.org/ryoshu/bbs/wforum.cgi?no=398&reno=395&oya=395&mode=msgview


  [No.887] イラスト枝 投稿者:ゆうみ  投稿日:2010/02/10(Wed) 00:17:44

イラスト投下はこちらへ。


  [No.888] WD資料の机 投稿者:ゆうみ  投稿日:2010/02/10(Wed) 00:31:57

本、丸秘資料などです。

NEKOBITOくんの依頼で、彼のイラストにゆうみが少し書き足しました。
http://www.cano-lab.org/akudo/bbs3/data/1265729203.JPG

5分作業。


  [No.889] 資料集(ラフ) 投稿者:ゆうみ  投稿日:2010/02/11(Thu) 00:10:44
資料集(ラフ) (画像サイズ: 320×240 95kB)

こちらもNEKOBITOくんの絵にメモ書きを追記。

5分仕事です。


  [No.891] SS枝 投稿者:よっきー  投稿日:2010/02/14(Sun) 23:03:50

SS(作業中も含む)はここへ


  [No.892] 宇宙での実験 投稿者:よっきー  投稿日:2010/02/14(Sun) 23:04:38

リクエストがあったので。まだまだ半分くらいな感じですが……

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 ニューワールド上空3万数千キロ。静止軌道を大きな丸い物体が漂っていた。
その名は凸ポン号。ヲチ藩国にて開発された打ち上げ機で、今では涼州藩国の宇宙実験を一手に担っている老兵である。
型式こそ古いものの、積み上げられたノウハウによる信頼性は厚く、可愛らしいフォルムともあいまってその人気はいまだ衰えていない。

 その凸ポン号のハッチから出てきた物体が二つ。大小サイズの違う人型であった。
大きいほうの人型はわんわん帝國制式採用I=Dのケント。空間戦対応機としては最古参の部類に入る第二世代I=Dである。
そして小さいほうが白狼。現在涼州藩国で開発中の最新型WDで、今まさに空間戦用の調整を終えてテストを開始せんとするところであった。

「あーあー、テステステス。NEKOBITOさん、よっきーさん、聞こえてますか?」
凸ポン号のメインモニター前でマイクに向かって声を上げているのはliang。白狼の開発チーフだ。
彼の前には何枚ものスクリーンウィンドウが開き、白狼の動作データとその装着者であるNEKOBITOのライフデータが流れている。
現在のところデータはオールグリーン。心拍のみ閾値に近づきつつあるのはテストへの緊張か、それとも宇宙空間の感覚に戸惑っているのか。
いずれにせよliangはテスト開始に支障なしと判断し、最初のスイッチを押した。

「いいですか。これから隕石型のダミーバルーンを射出します。それを回収して戻ってきてください」
「あい、さー」
返事があるや否や、発射管に装填されたバルーンが射出され、内部のガス圧で自動的に膨張する。
針金の骨組みによって遠めには隕石と見分けのつかないそれを追って、スラスターを噴かした白狼がすべるように動き始めた。
簡単そうに見えるテストではあるが、スラスターや人工筋肉の精度と反応速度を測るには十分な内容であるし、
宇宙空間では少しの事故がきっかけで死ぬまで宇宙をさまよい続けなければならない危険もあるのだ。
最初から限界まで振り回すような無茶をさせるわけにはいかないということでこのテストとなったのである。

 白狼が動き出すと、それを追うようにしてよっきーのケントも動き始めた。
こちらは万一の事故のときのためにフォロー役として追随しているのだが、それでも万全とはいえないのが宇宙というフィールドの恐ろしさである。
もしも白狼に装備された4機のスラスターが同時に暴走でも始めたら、質量のせいで出足の遅いケントでは見失ってしまう可能性が充分にある。
仮に追いつけたとしても地球の重力につかまってしまえば、大気圏突入能力のない白狼やケントは一巻の終わりなのだ。
何度地上でのテストやシミュレーションを繰り返し万全を期してきたといえども、
その事実はこの場にいる全員の腹の底に冷たい錘として引っかかっているのであった。

 その不安が現実となったのはそれから40分ほどたった後、兵装試験のさなかのことである。
後にハイ・レーザーライフルと呼ばれることになる得物を構え、NEKOBITOは標的である古い装甲板に狙いをつけると、凸ポン号に最終確認を送った。
「TLAS−XHLR、射撃試験準備オーケーです。開始タイミングください」
「こちらケント。周辺領域クリア。射線上クリア。問題なし」
「了解。それでは開始、お願いします」
「あい、さー。カートリッジロード。ファイア!」
一条の閃光が銃口から放たれると、分厚い装甲板にはまるで錐で紙を突き通すかのように一瞬で穴が開き、遅れて蒸発した装甲剤の反動でくるくると回りだした。
その期待通りの威力に歓声を上げようとしたliangが耳にしたのは、だがしかしNEKOBITOの悲鳴であった。

「にゃああぁぁぁっ!?目が、目が回るるるる……」
「どうしたんですか、NEKOBITOさん!よっきーさんフォローを!」
「もう動いてる!でもスラスターが暴走したみたいでクルクル回りながら吹っ飛んでるから軌道の予測がつかない……こりゃ掴まえるのには手間取るぞ」
「パターン予測はこっちで作りますから今はとにかく見失わないように!NEKOBITOさんも自力でリカバーできませんか?」
だがその呼びかけにも、NEKOBITOから返事の帰ってくる様子はない。
liangは素早く各種のデータを一睨みすると、コンソールに指を滑らせ矢継ぎ早に指示を開始した。

(いくら目を回しているだけ、と言ってもなぁ……)
liangからNEKOBITOがひとまず無事であることを告げられたよっきーだが、その表情はいまだ厳しい。
そもそも肉体を強化した改造歩兵とはいえ、その脳は生身のものである。あれだけの遠心力で振りまわされれば脳にどんなダメージがあるか知れたものではない。
(ここはNEKOBITO君には悪いが、強引に機体をぶつけてでも動きを止めないといけないな……)
などと考えて機体を急加速させようとしたその時。
突然脳裏に危険信号がフラッシュした。反射的に機体を緊急回避に入らせると遅れてコックピットのアラートが点滅する。
次の瞬間、先ほどまでケントの機体があった場所を超高出力のレーザーが横薙ぎにし、右の足首から先がごっそりと溶断されていた。
「うへ、ぇ。こんな予告なしレーザーかいくぐって飛び込めっての?どんな無理ゲー……」
連射の効かないレーザーとは言え、捕捉に手間取っているうちに至近距離から撃たれる可能性は充分にありうる。今は距離をおいて少しでも被弾率を下げるしかなかった。

 ケントのコクピットでよっきーがほぞを噛む思いをしていたその頃。
凸ポン号のliangは白狼とケントから送られてくるデータから、ある一つの結論に到達しようとしていた。
「これはスラスターの暴走じゃない……補助システムのバグでパラメータが地上戦用のになっているのか。中途半端な朦朧状態に陥っているからおそらく接近するものに対して正確な認識ができない。下手をすると無意識で撃たれるな……厄介だぞこれは」


  [No.907] 一応最後まで 投稿者:よっきー  投稿日:2010/03/09(Tue) 23:36:05

 ニューワールド上空3万数千キロ。静止軌道を大きな丸い物体が漂っていた。
その名は凸ポン号。ヲチ藩国にて開発された打ち上げ機で、今では涼州藩国の宇宙実験を一手に担っている老兵である。
型式こそ古いものの、積み上げられたノウハウによる信頼性は厚く、可愛らしいフォルムともあいまってその人気はいまだ衰えていない。

 その凸ポン号のハッチから出てきた物体が二つ。大小サイズの違う人型であった。
大きいほうの人型はわんわん帝國制式採用I=Dのケント。空間戦対応機としては最古参の部類に入る第二世代I=Dである。
そして小さいほうが白狼。現在涼州藩国で開発中の最新型WDで、今まさに空間戦用の調整を終えてテストを開始せんとするところであった。

「あーあー、テステステス。NEKOBITOさん、よっきーさん、聞こえてますか?」
凸ポン号のメインモニター前でマイクに向かって声を上げているのはliang。白狼の開発チーフだ。
彼の前には何枚ものスクリーンウィンドウが開き、白狼の動作データとその装着者であるNEKOBITOのライフデータが流れている。
現在のところデータはオールグリーン。心拍のみ閾値に近づきつつあるのはテストへの緊張か、それとも宇宙空間の感覚に戸惑っているのか。
いずれにせよliangはテスト開始に支障なしと判断し、最初のスイッチを押した。

「いいですか。これから隕石型のダミーバルーンを射出します。それを回収して戻ってきてください」
「あい、さー」
返事があるや否や、発射管に装填されたバルーンが射出され、内部のガス圧で自動的に膨張する。
針金の骨組みによって遠めには隕石と見分けのつかないそれを追って、スラスターを噴かした白狼がすべるように動き始めた。
簡単そうに見えるテストではあるが、スラスターや人工筋肉の精度と反応速度を測るには十分な内容であるし、
宇宙空間では少しの事故がきっかけで死ぬまで宇宙をさまよい続けなければならない危険もあるのだ。
最初から限界まで振り回すような無茶をさせるわけにはいかないということでこのテストとなったのである。

 白狼が動き出すと、それを追うようにしてよっきーのケントも動き始めた。
こちらは万一の事故のときのためにフォロー役として追随しているのだが、それでも万全とはいえないのが宇宙というフィールドの恐ろしさである。
もしも白狼に装備された5機のスラスターが同時に暴走でも始めたら、質量のせいで出足の遅いケントでは見失ってしまう可能性が充分にある。
仮に追いつけたとしても地球の重力につかまってしまえば、大気圏突入能力のない白狼やケントは一巻の終わりなのだ。
何度地上でのテストやシミュレーションを繰り返し万全を期してきたといえども、
その事実はこの場にいる全員の腹の底に冷たい錘として引っかかっているのであった。

 その不安が現実となったのはそれから40分ほどたった後、兵装試験のさなかのことである。
後にハイ・レーザーライフルと呼ばれることになる得物を構え、NEKOBITOは標的である古い装甲板に狙いをつけると、凸ポン号に最終確認を送った。
「TLAS−XHLR、射撃試験準備オーケーです。開始タイミングください」
「こちらケント。周辺領域クリア。射線上クリア。問題なし」
「了解。それでは開始、お願いします」
「あい、さー。カートリッジロード。ファイア!」
一条の閃光が銃口から放たれると、分厚い装甲板にはまるで錐で紙を突き通すかのように一瞬で穴が開き、遅れて蒸発した装甲剤の反動でくるくると回りだした。
その期待通りの威力に歓声を上げようとしたliangが耳にしたのは、だがしかしNEKOBITOの悲鳴であった。

「にゃああぁぁぁっ!?目が、目が回るるるる……」
「どうしたんですか、NEKOBITOさん!よっきーさんフォローを!」
「もう動いてる!でもスラスターが暴走したみたいでクルクル回りながら吹っ飛んでるから軌道の予測がつかない……こりゃ掴まえるのには手間取るぞ」
「パターン予測はこっちで作りますから今はとにかく見失わないように!NEKOBITOさんも自力でリカバーできませんか?」
だがその呼びかけにも、NEKOBITOから返事の帰ってくる様子はない。
liangは素早く各種のデータを一睨みすると、コンソールに指を滑らせ矢継ぎ早に指示を開始した。

(いくら目を回しているだけ、と言ってもなぁ……)
liangからNEKOBITOがひとまず無事であることを告げられたよっきーだが、その表情はいまだ厳しい。
そもそも肉体を強化した改造歩兵とはいえ、その脳は生身のものである。これ以上の遠心力で振りまわされれば脳にどんなダメージがあるか知れたものではない。
(ここはNEKOBITO君には悪いが、強引に機体をぶつけてでも動きを止めないといけないな……)
などと考えて機体を急加速させようとしたその時。
突然脳裏に危険信号がフラッシュした。反射的に機体を緊急回避に入らせると遅れてコックピットのアラートが点滅する。
次の瞬間、先ほどまでケントの機体があった場所を超高出力のレーザーが横薙ぎにし、右の足首から先がごっそりと溶断されていた。
「うへ、ぇ。こんな予告なしレーザーかいくぐって飛び込めっての?どんな無理ゲー……」
連射の効かないレーザーとは言え、捕捉に手間取っているうちに至近距離から撃たれる可能性は充分にありうる。今は距離をおいて安全圏から追跡を続けるしかなかった。

 ケントのコクピットでよっきーがほぞを噛む思いをしていたその頃。
凸ポン号のliangは白狼とケントから送られてくるデータから、ある一つの結論に到達しようとしていた。
「なるほど。これはスラスターの暴走じゃなくて、補助システムのバグでパラメータが地上戦用になっている、と。
装着者側もあの回転で朦朧状態に陥っているからおそらく接近するものに対して正確な認識ができないはずですし……
下手をすると無意識で撃たれるかもしれないけど、これは逆にチャンスかも。よし!」
liangはよっきーに対して2つ3つ指示を飛ばすと、その結果と予測を照らし合わせた。
結果は96.4%の確率で合致。思わず安堵のため息が漏れる。
完全な暴走でなければどこかで必ず負のフィードバックが働くため、Gなどによる生体部への致命的な損傷を受けることはまずないからだ。

 この段階で残る大きな問題は2つ。
まず一つは、如何にレーザーを回避して白狼に接近し掴まえるか。
これは白狼の状況が判明したことで射撃を誘発することができるようになり、チャージの隙を突ける分だけ楽にはなった。
だが残る問題が大きく立ちはだかる。
それは凸ポン号に残された燃料……推進剤の残量であった。
宇宙空間ではどのような機動を取るにも推進剤を必要とする、絶対と言える法則がある。
 レーザー射撃を誘発するのが回避行動の取れるケントの役目であるならば白狼を掴まえるのは残った凸ポン号の役目だ。
だが凸ポン号に残された燃料では、先行する白狼やケントに追い付くための減速を行った後でチャージの隙を突いて接近できるほどの加速を行った場合、
残された燃料では地上への帰還軌道に乗ることができない。
そうなれば無理に大気圏へ突入して燃え尽きるかあるいは酸素がなくなるまで軌道を回り続けるか……


 何度も計算を繰り返し、行き詰りを感じ始めたliangはいったん席を立ち、体をぐるりと回して大きく深呼吸をした。
その最中、ふと端のほうに追いやられていた積載物リストが目に入る。
リストに記載されたあるものに大きく目を見開くと、次の瞬間から脳細胞がフル回転を始め、即座にある仮説が組みあがる。
その仮説をもとに幾度かの検算を繰り返し、その顔に浮かんだのは、覚悟を決めた漢の笑みであった。
liangは行動予定をまとめると、凸ポン号の全クルーおよびケントのよっきーへと送信した。

 その行動予定を見た全員がliangの正気を一瞬たりとも疑ったのは当然のことであったが、
だがしかしこれ以外の方法が現状で見つからないのもまた彼らにとっては厳然たる事実であったから、反対する者はだれもいなかった。
沈黙を破り、よっきーが問う。
「あー、なんだ。これで上手く行くという自信は、当然あるわけだよね?」
「勿論です。そしてこれを成し遂げられられるのは私をおいて他にないという自信も」
「それもそうか……わかった。許可するよ。こちらも全力でバックアップする」
「ありがとうございます。では総員、先ほどの計画通りにお願いします!」
言うや否や、liangは席を蹴ってコックピットを後にした。
緊張が支配するコックピットに、カウントアップするタイマーだけが変わらずその単調な仕事を続けている……

「さて、じゃあこちらは猟犬役と行きますか……?」
軌道上で凸ポン号に先行する形になっている白狼とケント。
こちらに追い付こうと減速を開始した凸ポン号を見て、よっきーがケントの120mm砲、通称ランスを構える。
そして射撃。即座に回避運動を取って反撃のレーザーをやりすごすと、増速して弾丸を回避する姿が確認できた。
(やはり読み通りだな……ならば!)
続けて二射・三射と発射し高軌道へと追い込むことで角速度を失わせ、凸ポン号との距離を縮める。
それこそが猟犬の役割であり、それはまさに今果たされようとしていた。
ランスを撃ち終えたケントの直下で凸ポン号のハッチが開く……

 凸ポン号のハッチから出てきたのは大きな盾を構えた一機のウォードレスであった。
一見するとその姿は白狼のようにも見えるが、背中に大きく張り出した二つのブースターを始めとしたいくつかの違いがある。
その名を『&ruby(ぐひん){狗賓};』という。
天狗の一種の名を頂いた、改造歩兵用WDのなかでも最初期に作られた実験機であり、
その名の通りの高機動性を追求して作られて遺憾なくその要求に応えながらも、余りの扱いの難しさに採用されなかった悲劇の機体である。
そして今それを装着するのは狗賓を自ら開発しながら不採用の決定を下したliangその人であった。
狗賓は滑るようにハッチから外へ出ると、盾に寝そべるようにしてから軽くスラスターをふかして所定の位置についた。

 そして作戦開始時間。最初に動いたのはケントであった。
手持ちのランスを振りかぶり、白狼に向けて加速しながら投げつける。
瞬時に反応した白狼がレーザーライフルを射撃。飛来するランスを迎撃すると、弾倉に残っていた弾薬が誘爆し即席の煙幕となった。
その瞬間、凸ポン号がそのエンジンをオフから一気に全力運転へ。
その噴射炎が所定の位置……すなわち凸ポン号のエンジン直前に位置していた狗賓へと浴びせられ、猛烈な勢いで盾ごと狗賓を高軌道へと押し上げる。
続いて狗賓も自らの持つブースターを点火。限界を超えた加速力で煙幕へと突入した。

 一方、煙幕の向こうではケントが残された射撃武器である対人機関銃で涙ぐましいともいえる牽制を行っていた。
だがその効果があったのも束の間、チャージの完了したハイ=レーザーライフルの銃口がケントのコクピットに狙いをつけ、
次の瞬間煙幕を突き破って表れた狗賓の盾へと再照準。その破壊的なエネルギーを解放した。
レーザー光は凸ポン号のエンジンにすら耐えた盾を容易く貫通し、その背後の煙幕すら吹き散らした。
が。
そこに狗賓の姿はない。

 狗賓は今や白狼やケントよりさらに高い軌道にまで上昇していた。
ハイ=レーザーライフルの高エネルギーによりほんの僅かだけセンサーに空白ができる隙を狙い、大きく迂回して後ろを取ったのだ。
そして一転。今度は急降下をかける。
その手に光るのは高速振動刀。『&ruby(死を忘れるな){メメント・モリ};』の文字を刻んだ逸品だ。
慌てて振り返ろうとする白狼よりも迅く斬撃が走り、ハイ=レーザーライフルの銃身を斜めに切断する。
その回転力を利用して側頭部へと蹴りを叩きこみ、NEKOBITOの残っていた意識を刈り取るとともにケントの方へと吹き飛ばした。
くるくると回転を続けるその体をケントの手が鷲掴みにすると、スラスターの安全装置が働き白狼はその動きを止めた。

「終わった……のかな?」
ケントのコクピット内でひとまず安堵するよっきー。凸ポン号からも通信で歓声が聞こえてくる。
「成功ですね。あとは凸ポン号とランデブーして、地上へ帰還するだけですよ」
こちらは接触通信で、liang。流石に疲労の色は隠せず声は荒いが、こちらも嬉しさに声が弾んでいた。
「シールドの残骸もあの軌道だと大気圏に突入して燃え尽きそうだしね。ところで……」
「なんかすごい勢いでアタマ蹴られてたけど、NEKOBITOくん……生きてる?」
「え?」
一瞬の沈黙。あわてて計器を確認するliang。
「あ、はははー。当然じゃないですかほらバイタルも正常だし。計算通り計算通り」
「で、ですよねー。あ、はは……HAHAHAHAHAHA」

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「と、言うようなことがあったらしいんですよー」
所と場所は変わって。一週間後の涼州藩国王城の食堂。ゆうみとテノレが茶飲み話に花を咲かせていた。
「大変だったみたいねえ」
と、そこに通りかかるod。手にはマグカップを持っていてコーヒーの追加を取りに来たようだ。
それを目ざとく見つけて、コーヒーメーカーを操作するodの背後に忍び寄り、大きな声で脅かしてみる。
「うぇ!?……ああ、なんだ貴方達ですか」
「そうでーす。白狼の宇宙試験、大変だったんですってねー」
「ああ。あの時は私も地上からサポートしてましたが……どこでその話を?」
「ちょっと小耳に。いやーでもレーザーライフルの中をかいくぐってとか、よく大丈夫でしたねぇ」
「え?」
小首をかしげるod。しばらく考えてあることに思い至ったのか、悪戯じみた顔で話しだした。

「ああ、もしかして。liangさんが狗賓で無謀な突撃を……ってやつですか?」
「そうそう、それですよ!」
ふふ、と笑みを浮かべるod。
「あのですね。それは多分、白狼の開発ドキュメンタリー風アニメを作ろうって言ってよっきーさんが書いた脚本ですよ?」
「「え、ええーっ!?」
「確かに射撃試験の時にバグが発生したのは事実ですけど、そんな大げさに暴走してはいないですし、
 そもそも開発途中の武器を試験するのにそんな何十発分もエネルギーは入れておきませんよ」
「そうなんですかー」
しょんぼりと肩を落とす二人。
タイミングを合わせたかのようにコーヒーメーカーの電子音が鳴り響いた。
「じゃあ私はまだ仕事が残ってますのでこれで」
「はーい」

「さてと。バグ取りにパラメータ調整に再試験、まだやることは多すぎるなあ……
 よっきーさんもストレス解消はいいけどあまり変な所に力入れすぎないで欲しいんだけど。ふぅ」
白狼のロールアウトはまだ遠く、王城の廊下にコーヒーをすする音が空しく響いていた。