「ゆうみさぁん!最近オバケが出るらしいんスけど・・・」
「妖怪って噂もあって」
「自分は幽霊を見ました!」
「子鬼に夜食食われたって話もききやすよ!」
おいおい、ちょっとまて。
なんだよその百鬼夜行は!
「それは小神族っていう、神様じゃないですかネ?ゆうみさん」
おお、NEKOBITOくんいいところに!
そうだよねー。小神族だよねー。かわいいよねー。
「そうそう、神様だよ。ってことで、詳しい説明はNEKOBITOくんに聞くといい」
「ゆうみさん、怠惰ってコトバを知ってますか?」
「なんのことですかなー」
「まぁ説明ぐらいはしますけどね」
(あとでジュースでも差し入れしよー)
説明が苦手な僕は、その場をNEKOBITOくんに頼んで。
正しく言うと、逃げたことになる。
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百鬼夜行騒ぎからほどなくして、豊穣祈願祭が行われることが決まった。
全国から人を呼んで、大々的に豊穣を祈るらしい。
招待されているのは全ての国民だったりするので、当然のことだが、ここいらの工場に勤めている者も参加することになった。
日程が決まったこと、祭壇の設計と組み上げを頼まれた事を伝える為、食堂にみんなを集めた。
先日のNEKOBITOくんの活躍で、どうやらオバケや妖怪や幽霊や鬼が出たなんて話は嘘みたいになくなっていた。
かわりに「小神族萌え〜!」なんて言い出すヤツがいるらしく、バチがあたるんじゃないかと心配になった。
「スケジュールはこんなかんじで。あとは移動方法なんだけど・・・」
「ここから穀倉地帯まではかなり遠いですよ?」
「まさか・・・徒歩?」
「せめてトラックで・・・」
不満というより不安の声があがる。
なんでそんなヒッチハイクみたいなことをせんといかんのだ。
僕の方が文句言いたいよ・・・。
「僕だってやだよそんなの。涼州鉄道で行くって!」
「「「やったー!!」」」
飛び上がって喜ぶ一同。
いやぁ、確かに、GDRができると聞いた時には嬉しさがこみあげてきたよなぁ。
「すずてつ乗るの初めてなんだよな!」
「スレイプニィルってすっげー速いんだろ!?」
「いよかんライン・・・故郷の香りがするよ・・・」
「ちょっとまて!いよかんがあるのは農園付近の駅だけだから!」
「いゃっほぅ!」
急にテンションがあがり、我先にと土木用具を探しに走り出す。
どう考えてもフライングですよあなたたち。
涼州鉄道、愛称すずてつ。
GDRの路線会社の名前である。
その路線名をいよかんラインといい、主力となってがんばっている車両名をスレイプニィルという。
この工業地帯もGDRを使った搬送の恩恵は受けているが、一般の作業員が乗る機会はなかなかなく、高いわけでもないのにプラチナチケットなんて呼ばれていた。
手に入りにくいものはチケットではなく、すずてつに乗る理由と行き先なのだった。
じゃあいっちょがんばりますか、と、若い設計士を呼んだ。
設計士といっても普段はラインの組み換えや保全業務が主なのだが、彼の成長はめまぐるしいものがあった。
ベテランのおっちゃんがその才能と努力を評価し、徹底的に鍛え上げたのだから余計のこと。
最近ではグゥの音も出ないような独創性で、過去のトラブル原因を解消できる設計を出してくるのである。
こいつなら任せて大丈夫だろうと、単刀直入に話を進めることにした。
「やぐらみたいなのとか、奉納物を置く祭壇だとかを作るんだけど」
と、手に持った大判の書類を開く。
「ええっと、これよっきーからもらってきた物資リストと概略図ね。こっから図面起こしてくんない?」
「うぃっす!」
元気よく返事した若者は、「材料は現場直送なんスね、ふむふむ」なんて言いながら書類に一通り目を通した後。
何故か僕の顔色をうかがった。
「なに?」
「え、あーいやその」
「とりあえずゆーてみぃな」
「あ、はい・・・。ちょっとアレンジしてもいいっすかね?」
「ふぇ!?」
(よっきーこわいよー。でもでも、せっかくやる気になってるしナー。)
数秒の沈黙の後、出た答えはこれだった。
「豊作祈願祭にふさわしいものなら、ちょっとぐらいは許されるんじゃない・・・かな?」
「ありがとうございまっす!!!精一杯やっちゃいますから期待してください!」
「おぅ!まかせた!」
若者が製図室へスキップして行くのを見て、めまいがした。
(うっわー、許可するんじゃなかったかもー。よっきーに叱られる確率80%・・・強?)
しかし許可してしまったものは仕方がない、仕上がりがまともであることを祈ろうと、その日は早く寝ることにした。
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豊作祈願祭1週間前。
工場は止められないから、僕は土木作業が得意なヤツら十数名を連れて、先発隊として現地に向かった。
図面起こしを頼んでいた彼は、後生大事に図面を抱えていた。
昨日、できあがったことを知らされたが、怖くて図面は見ていない。
あいつはセンスがいいから、強度やなんかに関しては心配ないのだが、どうにもデザインが不安で仕方がない。
不安というか・・・怖いよぉ・・・。
そんな気持ちを押し殺しつつ、すずてつの改札を通って、スレイプニィルに乗り込む。
留守番組みが見送りに来てくれはしたが、どう考えたって主役は僕らじゃなくてスレイプニィル。
出発の時はうらやましげな面持ちで手を振られてしまった。
その名のモチーフが北欧神話に出てくる8本足の馬なだけあって、すごいスピードで走る。
技術屋ならうらやましがって当然だ。
みんなも僕も、乗るだけで、見るだけで幸せいっぱいなのである。
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「ここっすね?」
よっきーと、開拓事業の責任者、それと、僕らのように仕事を任された者たち数名が列席していた。
「えっ・・・と、この、やぐらの上に乗ってる丸いオブジェは・・・?」
「いよかんです!」
「はぁ!?」
「ですから、いよかんです!」
「ええぇ!?」
「柑橘類の清清しい香り!丸くて美しいフォルム!神様達もきっとよろこんで下さるに違いありません!」
「ちょっとまて、形はともかく香りはしないだろ?」
「いいえ!この中にいよかんを入れて奉納するんですよ!」
「「「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」
そこにいいた全員が引いた。
僕も引きたかったが、ここで負けたら叱られるの確定じゃないか!
なんとか彼の案を認めてもらわなければ命がないのだ。
や、命がないとかはうそですが。
「奉納物リストのいよかんからひらめいた、彼の最高傑作ですよ!建材は全て余ったものを使ってるからエコですし!」
「人の技術と大地恵みのコラボレーション!これは!」
「「豊穣収穫祭にぴったりじゃないですか!!!」」
僕の声と、いよかん農家のおばちゃんの声がハモった。
「いよかんは、涼州藩国の宝です!」
その言葉に、何人かの姿勢が元に戻った。
いいぞおばちゃん!
「そうですね、穀物だけが私達を豊かにしてくれる食物ではないことを失念していました」
開拓事業の責任者さんが味方についたぞ!!よっしゃぁ!!
「ということで、摂政、是非とも承認をお願いします」
「う・・・皆さんがそこまで言うなら、わかりました。これでいきましょう」
ばたり。よっきーが卓上に突っ伏した。
あまりのひどさにあきれたのかと思ったら、書類が遠かったので必死にハンコを持った手を伸ばしていただけだったようだ。
やれやれ。
ひとまずこれで今日は生き延びられた。
あ、いや、叱られなかっただけです、はい。
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その日のうちから作業は始まった。
まずは一通りの建材を図面どおりに仕上げ。
祭壇を作り、それからやぐら、いよかんドームの順に組み立てていく。
数日後からは、食糧生産地から大量の食料が搬入され、既に組みあがった祭壇の上に並べられていった。
あまりの量に、1日では並べきれないのである。
それを横目に、僕らのチームはいよかんドームを組み立てていた。
人ひとり入れそうないよかんのオブジェは、もうドームとしか言いようがない。
中に光源を入れれば、ちょっとしたプラネタリウムができてしまいそうだ。
「いよかんの搬入は、祈願祭前日、つまり明日の朝だ!」
「何としても今日中にドームを仕上げるぞ!」
「「「オー!!!」」」
ときの声よろしく、一斉に声があがる。
この分なら日が落ちる前には片付きそうだ。
明日はきっと、にぎやかな祭りになるだろう。