奥羽りんく結婚披露イベント特設ページ/結婚前夜の前夜
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[[奥羽りんく結婚披露イベント特設ページ]]
『政治は政治家がやればいい。俺の仕事はロマンを現実に鍛え...
――技術屋ヨルクサ、摂政を前...
-前夜の前夜-
「――というわけだが」
男の言葉が終わったとき、会議室を満たしたのは沈黙だった。
狭い部屋だった。
長机二つをパイプ椅子四つで囲めば手一杯。窓際のホワイト...
蛍光灯だけがギラつくように白く瞬き、書類の束で埋まった...
ここは悪童同盟の王城、その一角にある小会議室だ。
日頃は閉ざされている部屋に男三人が集まり、顔をしかめて...
一人はホワイトボードの前に座った緑のツナギ姿の青年。サ...
もう一人は対面に座った細身の少年。大人びた表情を曇らせ...
最後の一人は白い青年だった。天井をぼんやり見つめ、虚空...
まともな言葉が交わされることはなく、重苦しい空気だけが...
技術主任と摂政と意見役。
国の重鎮が揃った会議だというのに、広がる光景には一種異...
だが、それも仕方ないのかもしれない。
悪童同盟の次期主力戦闘機を巡る会議の壇上で、技術主任の...
この国には既に、正式採用された戦闘機が一機存在する。
その名も白夜号。超長距航行を可能とした戦略爆撃機だ。燃...
そして白夜号の成功に気をよくした首脳陣は、新たなる戦闘...
なぜなら、この国の空軍に攻める翼はあっても守る翼はない...
世界規模の戦闘に参加するために国防を捨てて爆撃機を作っ...
『守っても死ぬから攻めて倒す』
そこまで言ったかは知らないが、いかにも悪童屋の言いそう...
そういうわけで。
悪童同盟には、可及的速やかに戦闘機を開発する必要があっ...
「返事がないな。俺の説明不足か？ そんなに難しいことは言...
口の端をことさらに釣り上げ、ヨルクサは顎を撫でながらホ...
「要点は三つ。ステルス性が高く、アフターバーナー無しでス...
ヨルクサが自信たっぷりに語るのはいつもの事としても、そ...
ただし、よっきーが眉をひそめる程度に常軌を逸しているの...
プラン自体は真っ当でも、その要求水準が狂っている。
『従来機の目の前を飛んでもレーダーに映らないような隠密...
『大出力エンジンに推力変更ノズルを複合した、変態的運動...
これらを兼ね備えているだけでも大概なのに、ヨルクサは選...
完成すれば確かに強力だろう。
だが、よっきーの脳裏では冷徹なソロバンが高速で稼働して...
「これじゃ予算が高騰します。維持費なんて考えたくもない。...
ことマッドな技術に目がないよっきーも、現実的な観点から...
ない袖はふれないし、いらないものは作っていられない。悪...
だがヨルクサはよっきーの発言を鼻で笑い飛ばした。
「ハッ、ムチャは承知だ。この国は人がない。物がない。技術...
「まぁ……そういう感じではありますが。あと、国民は少なくと...
「なら小国の国防用の機体なんぞ誰が買う。人が欲しがるのは...
「いいですか、そもそも商売を念頭におかずに自国のために生...
よっきーが食い下がる。ここは国会ではないから実行力はな...
お国柄として、こういうものは最初に握りつぶしておかない...
「実用性？ あるともさ。見られただけで死ぬような敵がいる...
「コレはいつもの悪ふざけとはワケが違うんですよ。実行に移...
だんっ、と机を叩く音が響く。
勢いあまって立ち上がったよっきーは、バツが悪そうにすみ...
紙束の山が崩れ、よっきーの対面に座っていた男が書類の雪...
「あ」
だが、ヨルクサは気にしない。
「何も変わらんよ、俺の仕事は。思いつくがままに、思いのた...
「それじゃあ国が成り立たないと言って――」
言葉を遮るように、蛍光灯がまたたいた。
ヨルクサのサングラスが粘質に照り返す。
書類の山ががさりと蠢く。
「――政治は政治家がやればいい。俺の仕事はロマンを現実に鍛...
「っ！」
ロマン。
その一言は悪童同盟の人間の弱点だった。
元々、オイルマネーと戦闘機で戦争に勝つなどと言い出して...
開拓者気質というべきか、目先のことより将来の大博打を好...
だからこそよっきーやゆうみが国の財政を引き締め、悪童屋...
そしてヨルクサは、そのロマンの最前線を生きる技術主任だ...
「俺が君に求める仕事はただ一つ。俺の欲しい翼を、誰もが欲...
サングラスの奥に、炯々と輝くものがある。
それは燐光にも似た淡い揺らぎの芯に、灼熱する太陽を宿し...
「僕の仕事は、あくまで国を円滑に運営することです」
よっきーは矮躯に力を込め、全力でヨルクサの眼光を受け止...
視線がぶつかり火花を散らす。
またも書類の山が蠢き、二人の均衡にヒビを入れる。
空気の読めない男が混じっていたのが、二人の幸運だった。
最初に肩をすくめたのはよっきーだ。
「……ですから、予算はギリギリまで削ります。計画は限界まで...
「それで？」
「なお必要だというのなら、まず僕を納得させてください。机...
「事実上のゴーサインだな」
「形式的な合図がなければ採用されませんよ。そのために裏付...
「なるほど、政治屋らしい台詞だ」
「褒め言葉だと受け取っておきます」
二人が一応の落としどころを見つけた頃、紙束の山も崩壊の...
雪崩打つ紙を崩落させ、中から男が一人立ち上がる。
白い民族衣装に虎を思わせる戦化粧を入れた男――悪童同盟の...
「ヨルクサさん！」
松は興奮を隠さず、ヨルクサの両肩に手をかける。
あまりの勢いのよさに、寝不足かつ低血圧のヨルクサが姿勢...
「この機体は凄いぞ。何が凄いって全く不要のドッグファイト...
「えぇと松さん、何を言ってるんでしょうか……」
よっきーからすれば、いつものノリで呼んだこの男は虚空を...
だが、ヨルクサは違ったらしい。
「相変わらず機体を頭の中で動かすのが上手い奴だな。そうだ...
「スペック見て実機が想像できんような奴は伏見でパイロット...
「違いない」
こうなると文官の立ち入る領域の話ではなかった。
よっきーは苦笑いしながら息をつき、ホワイトボードの後ろ...
狭い部屋は赤く染まり、黄昏の色に近づきつつあった。
雑談という名の会議もそろそろ終わりかとしみじみ思った瞬...
「コイツの名前は――そう、白刃号だ！」
「そいつはいいな、開発コードはそれでいこう」
まるで今日の話が現実になるかのように盛り上がる二人。
きっとそうなってしまうのだろうが、結果に至る道ではかな...
「まぁいっか、役に立つんならそれはそれで」
スッキリと割り切って、よっきーは書類に手をかけ部屋を片...
悪童同盟はいつだって、ロマンを力技で押し通して実現する...
-余談-
この後、白刃号のテスト機はちょっとした実戦を経験するこ...
悪童屋四季
奥羽りんく
藩王親娘の一騎打ちという、意外に過ぎる戦場で。
その結末を知るものは、まだどこにも存在していなかった。
CENTER:（文：松）
終了行:
[[奥羽りんく結婚披露イベント特設ページ]]
『政治は政治家がやればいい。俺の仕事はロマンを現実に鍛え...
――技術屋ヨルクサ、摂政を前...
-前夜の前夜-
「――というわけだが」
男の言葉が終わったとき、会議室を満たしたのは沈黙だった。
狭い部屋だった。
長机二つをパイプ椅子四つで囲めば手一杯。窓際のホワイト...
蛍光灯だけがギラつくように白く瞬き、書類の束で埋まった...
ここは悪童同盟の王城、その一角にある小会議室だ。
日頃は閉ざされている部屋に男三人が集まり、顔をしかめて...
一人はホワイトボードの前に座った緑のツナギ姿の青年。サ...
もう一人は対面に座った細身の少年。大人びた表情を曇らせ...
最後の一人は白い青年だった。天井をぼんやり見つめ、虚空...
まともな言葉が交わされることはなく、重苦しい空気だけが...
技術主任と摂政と意見役。
国の重鎮が揃った会議だというのに、広がる光景には一種異...
だが、それも仕方ないのかもしれない。
悪童同盟の次期主力戦闘機を巡る会議の壇上で、技術主任の...
この国には既に、正式採用された戦闘機が一機存在する。
その名も白夜号。超長距航行を可能とした戦略爆撃機だ。燃...
そして白夜号の成功に気をよくした首脳陣は、新たなる戦闘...
なぜなら、この国の空軍に攻める翼はあっても守る翼はない...
世界規模の戦闘に参加するために国防を捨てて爆撃機を作っ...
『守っても死ぬから攻めて倒す』
そこまで言ったかは知らないが、いかにも悪童屋の言いそう...
そういうわけで。
悪童同盟には、可及的速やかに戦闘機を開発する必要があっ...
「返事がないな。俺の説明不足か？ そんなに難しいことは言...
口の端をことさらに釣り上げ、ヨルクサは顎を撫でながらホ...
「要点は三つ。ステルス性が高く、アフターバーナー無しでス...
ヨルクサが自信たっぷりに語るのはいつもの事としても、そ...
ただし、よっきーが眉をひそめる程度に常軌を逸しているの...
プラン自体は真っ当でも、その要求水準が狂っている。
『従来機の目の前を飛んでもレーダーに映らないような隠密...
『大出力エンジンに推力変更ノズルを複合した、変態的運動...
これらを兼ね備えているだけでも大概なのに、ヨルクサは選...
完成すれば確かに強力だろう。
だが、よっきーの脳裏では冷徹なソロバンが高速で稼働して...
「これじゃ予算が高騰します。維持費なんて考えたくもない。...
ことマッドな技術に目がないよっきーも、現実的な観点から...
ない袖はふれないし、いらないものは作っていられない。悪...
だがヨルクサはよっきーの発言を鼻で笑い飛ばした。
「ハッ、ムチャは承知だ。この国は人がない。物がない。技術...
「まぁ……そういう感じではありますが。あと、国民は少なくと...
「なら小国の国防用の機体なんぞ誰が買う。人が欲しがるのは...
「いいですか、そもそも商売を念頭におかずに自国のために生...
よっきーが食い下がる。ここは国会ではないから実行力はな...
お国柄として、こういうものは最初に握りつぶしておかない...
「実用性？ あるともさ。見られただけで死ぬような敵がいる...
「コレはいつもの悪ふざけとはワケが違うんですよ。実行に移...
だんっ、と机を叩く音が響く。
勢いあまって立ち上がったよっきーは、バツが悪そうにすみ...
紙束の山が崩れ、よっきーの対面に座っていた男が書類の雪...
「あ」
だが、ヨルクサは気にしない。
「何も変わらんよ、俺の仕事は。思いつくがままに、思いのた...
「それじゃあ国が成り立たないと言って――」
言葉を遮るように、蛍光灯がまたたいた。
ヨルクサのサングラスが粘質に照り返す。
書類の山ががさりと蠢く。
「――政治は政治家がやればいい。俺の仕事はロマンを現実に鍛...
「っ！」
ロマン。
その一言は悪童同盟の人間の弱点だった。
元々、オイルマネーと戦闘機で戦争に勝つなどと言い出して...
開拓者気質というべきか、目先のことより将来の大博打を好...
だからこそよっきーやゆうみが国の財政を引き締め、悪童屋...
そしてヨルクサは、そのロマンの最前線を生きる技術主任だ...
「俺が君に求める仕事はただ一つ。俺の欲しい翼を、誰もが欲...
サングラスの奥に、炯々と輝くものがある。
それは燐光にも似た淡い揺らぎの芯に、灼熱する太陽を宿し...
「僕の仕事は、あくまで国を円滑に運営することです」
よっきーは矮躯に力を込め、全力でヨルクサの眼光を受け止...
視線がぶつかり火花を散らす。
またも書類の山が蠢き、二人の均衡にヒビを入れる。
空気の読めない男が混じっていたのが、二人の幸運だった。
最初に肩をすくめたのはよっきーだ。
「……ですから、予算はギリギリまで削ります。計画は限界まで...
「それで？」
「なお必要だというのなら、まず僕を納得させてください。机...
「事実上のゴーサインだな」
「形式的な合図がなければ採用されませんよ。そのために裏付...
「なるほど、政治屋らしい台詞だ」
「褒め言葉だと受け取っておきます」
二人が一応の落としどころを見つけた頃、紙束の山も崩壊の...
雪崩打つ紙を崩落させ、中から男が一人立ち上がる。
白い民族衣装に虎を思わせる戦化粧を入れた男――悪童同盟の...
「ヨルクサさん！」
松は興奮を隠さず、ヨルクサの両肩に手をかける。
あまりの勢いのよさに、寝不足かつ低血圧のヨルクサが姿勢...
「この機体は凄いぞ。何が凄いって全く不要のドッグファイト...
「えぇと松さん、何を言ってるんでしょうか……」
よっきーからすれば、いつものノリで呼んだこの男は虚空を...
だが、ヨルクサは違ったらしい。
「相変わらず機体を頭の中で動かすのが上手い奴だな。そうだ...
「スペック見て実機が想像できんような奴は伏見でパイロット...
「違いない」
こうなると文官の立ち入る領域の話ではなかった。
よっきーは苦笑いしながら息をつき、ホワイトボードの後ろ...
狭い部屋は赤く染まり、黄昏の色に近づきつつあった。
雑談という名の会議もそろそろ終わりかとしみじみ思った瞬...
「コイツの名前は――そう、白刃号だ！」
「そいつはいいな、開発コードはそれでいこう」
まるで今日の話が現実になるかのように盛り上がる二人。
きっとそうなってしまうのだろうが、結果に至る道ではかな...
「まぁいっか、役に立つんならそれはそれで」
スッキリと割り切って、よっきーは書類に手をかけ部屋を片...
悪童同盟はいつだって、ロマンを力技で押し通して実現する...
-余談-
この後、白刃号のテスト機はちょっとした実戦を経験するこ...
悪童屋四季
奥羽りんく
藩王親娘の一騎打ちという、意外に過ぎる戦場で。
その結末を知るものは、まだどこにも存在していなかった。
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