奥羽りんく結婚披露イベント特設ページ/結婚前夜・外伝
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[[奥羽りんく結婚披露イベント特設ページ]]
『悪童さんと恭兵さんってよく似てますよね。年とか雰囲気と...
――テノレ、一人分かっ...
-結婚前夜･外伝-
重い空気だった。
だが、悪くない空気だった。
時間は深夜、藩王執務室。
仕事にぽっかり空いた隙間に、戯れにかけてみた内線。
相手はきっと即座に起きるだろうという、少々常識のない予...
結果はビンゴで、目当ての人間は今目の前にいる。
入国したばかりだと言うのに、時差ボケの気配すらみせない...
奥羽恭兵――奥羽りんくの婚約者にして生粋の傭兵。電話のコ...
悪童屋は一人の娘の親として、この男と一度ゆっくり話して...
執務室の中央、高い天井の下でソファにすわり、悪童屋はグ...
中身は水だ。悪童屋は下戸で、そもそも己を鈍らせるものを...
対面に座った恭兵も、相手の流儀に合わせて水を飲んでいる。
水に浮いた氷が悪童屋に代わって歓迎を物語っていた。
この部屋に二人が揃って以来、交わされた言葉は少ない。
『何か御用ですか』
『あぁ』
『それはやはり？』
『その通りだよ』
そして、何もないがと切り出した悪童屋がソファにつき、恭...
正直なところ、悪童屋にも呼び出して言いたい何かがあるわ...
ただ、りんくが選んだ男を一目見ておきたかっただけだ。
そして、一目で用は済んでしまった。
奥羽恭兵は骨の髄まで戦士だ。
不器用を冗談で装い、本心を硝煙に隠し、戦場を渡り続ける...
自分によく似ていると思った。流儀も見ている先も違うが、...
それが証拠に、お互い一番知られたくない言葉を即座に察し...
だが、このままでもいいかとも悪童屋は考えていた。
もう少しすれば次の仕事が動き出す。そのタイミングで彼を...
この男にになら娘を託してもいい。何よりも戦士の直感がそ...
きっと娘の未熟が涙や嗚咽を生むことはあっても、この男が...
奥羽恭兵は、そういう誓いを立てた瞳をしていた。
厳しい優しさを持てるのならばそれで充分だ。肩書きも稼ぎ...
「……それで、俺はお眼鏡にかないましたか」
無言に耐えかねたような、気の詰まった声だった。
意外な声に、悪童屋が眉を上げる。
「何だ、気にしていたのか」
「そりゃあまぁ。嫁の父親に呼び出されて、一言もなしじゃあ...
「年は近いんだ、普通に話してくれ」
言いにくそうに敬語を使う恭兵に、悪童屋は口元を緩めて手...
お互い三十の坂は越えた身だ。書類の上では親子だろうが戦...
恭兵は口元を緩め、安堵したようにグラスの水を干す。
「っぷはぁ……。それじゃお言葉に甘えて。いいのか？ 俺みた...
「硝煙臭いだけで結婚できないなら、俺にもその資格はないさ...
「そりゃ道理だ。そういえばアンタも結婚したんだったな。奥...
「……白くて、強い女だ」
「アンタがそう言うならさぞやいい女なんだろうな。うちの嫁...
そう言って恭兵が苦笑する。
相対する悪童屋はなぜか水を喉に詰めていた。
「器用だなアンタ。持病でもあるのか？」
「……いや何でもない。で、そっちからしたらりんくはどうなん...
ムリヤリ話を反らすような口ぶりだった。
だが恭兵は気にとめず、グラスに水を注いで目を細める。
「まぁ、親のアンタに言うのもなんだがいい女だよ。子供だ子...
「素直だな。そういうのは黙るタイプかと思っていたが」
「分かる奴にしか言わんさ。お互い、味方に置き去りにされる...
よく分かる感覚だ。
すべてを失って己の心しかよすがに出来ないあの絶望は、筆...
同じ場に身を置いた人間にしか分からず、二人はそこに身を...
だからこそ通じるものが二人の間にはあった。
悪童屋がためらいがちに口を開く。
「俺は、結婚すれば弱くなると思っていた。弱点が増えると、...
「恥ずかしながら俺もだよ。だが――」
「あぁ。違うな、実際は。例え離れ離れでも、どんな姿形をし...
「同感だ。それがあるなら傭兵ぐらい休業してもいい。しっか...
「こんな事、同じ境遇の奴にしか言わんよ」
悪童屋は天井を見上げる。妻にも見せない戦士の顔だった。
恭兵は悪童屋から目を逸らし、グラスに目を落とす。
それは男同士の無言の友情だった。
二人はゆったりとグラスを手の平で転がし、氷の溶ける音だ...
やがて、恭兵が深く深く溜息をついた。
「なるほど。しかしまぁ、お許しが出たようで何よりだ。コレ...
「恐ろしいことを言う奴だな。ウチの国はよく燃えるし、飛ん...
「いやぁ別に、この国で怖いのはアンタだけだからな。りんく...
「ベタ惚れだな」
「あぁ。いい年したオッサンが、十以上年下の小娘に腰砕けだ...
りんくには恨まれるがな、と静かな表情で恭兵が微笑み、悪...
「うむ、まぁ……そうだな、りんくはいい娘だ。頼んだぞ」
「できる限り努力はするよ。コレでも大事にしてるつもりなん...
「はっ、孫の顔が見られる日を楽しみにしておくよ」
反射的に交わされる軽口。
和んだ場の雰囲気に恭兵は喉の奥で笑い、悪童屋はなぜか地...
「俺も――そういや、アンタに子供ができたらりんくのイトコに...
「……その辺は、当分気にしなくてもいい」
「なんだ。お互い若くないんだ。子供を作るなら早い方がいい...
「それはそうなんだが――色々と家庭の都合がだな」
またも悪童屋が言いよどむ。悲壮な表情が抜けていない。
恭兵は大きな事実に気付いていた。
悪童屋という男、自分の妻の話に言及されると切れ味が途端...
――触れられたくない事情でもあるのか？
相手が自分達より年上だとか。男だとか。種族が違うとか。...
色々な世界を渡り歩いた恭兵からすれば、どれもありえない...
だが、聞いても悪童屋は違うという。
「まさかアンタ、男として――いやいやいや、そう怖い顔をする...
「何だ、一応言ってみろ」
「……奥方が、りんくより年下で手を出せないとか、そういうの...
この硬派が、まさか十代に手を出しているとは思えなかった。
恭兵にとって今の言葉は可能性の確認に過ぎず、もっと他に...
いや、あってもらわないと困る。これは友情を感じた男への...
悪童屋はグラスを握る手を震わせながら、搾り出すように呟...
「……よく、分かったな」
恭兵、唖然とした。あいた口がふさがらない。
この男が、まさか。
「年は二桁……だよな？」
「当然だ！」
「それじゃ、１８、９……いや、それなら普通だな。もっと、下...
悪童屋は無言だった。
それはつまり肯定という意味だ。
もはや残りの人生でそう簡単に驚愕などするまいと思ってい...
はぁ、この骨を叩けば剣の音が、頭を振ればカミソリの音が...
十代半ばの女――いや、少女を、妻に。
素直に驚嘆するしかなかった。
「あぁ、いや……ソイツは凄いな。それも王の器って奴か。それ...
「だから言うのが嫌だったんだ……！」
悪童屋、ほぼ全方位に置いて無敵の男だったが、局所的に脆...
弱みを見せない生き方がこれほどまでに辛いという事を、恭...
男のプライドと男の純情。天秤に賭けて守るには、熾烈な戦...
「アンタも苦労してるんだな……」
そういう事情を男の友情で察した恭兵は、静かにグラスを置...
これは男の友情というよりは、戦士の情けだった。
だが、握った弱みの実行力を確かめずにはいられないのも戦...
恭兵は深く息を吸い込み、顎の無精ヒゲを撫でる。
「お互い、幸せな家庭って奴が手に入ればいいな」
「……俺は充分幸せだよ」
「いやいや、家庭の幸せって言えば旦那と嫁と子供に犬だろう...
「勘弁してくれ……」
効果は覿面だ。
ニヤリと笑う恭兵と、顔を抑えて天井を仰ぐ悪童屋。
思っていたよりは遥かに人間的な反応だった。
この男となら、いつかいい酒が飲めそうだ。恭兵は素直にそ...
妙な連帯感と力関係を産みながら、男同士の夜は更けていく。
お互い、パートナーには見せられない夜だった。
CENTER:（文：松）
終了行:
[[奥羽りんく結婚披露イベント特設ページ]]
『悪童さんと恭兵さんってよく似てますよね。年とか雰囲気と...
――テノレ、一人分かっ...
-結婚前夜･外伝-
重い空気だった。
だが、悪くない空気だった。
時間は深夜、藩王執務室。
仕事にぽっかり空いた隙間に、戯れにかけてみた内線。
相手はきっと即座に起きるだろうという、少々常識のない予...
結果はビンゴで、目当ての人間は今目の前にいる。
入国したばかりだと言うのに、時差ボケの気配すらみせない...
奥羽恭兵――奥羽りんくの婚約者にして生粋の傭兵。電話のコ...
悪童屋は一人の娘の親として、この男と一度ゆっくり話して...
執務室の中央、高い天井の下でソファにすわり、悪童屋はグ...
中身は水だ。悪童屋は下戸で、そもそも己を鈍らせるものを...
対面に座った恭兵も、相手の流儀に合わせて水を飲んでいる。
水に浮いた氷が悪童屋に代わって歓迎を物語っていた。
この部屋に二人が揃って以来、交わされた言葉は少ない。
『何か御用ですか』
『あぁ』
『それはやはり？』
『その通りだよ』
そして、何もないがと切り出した悪童屋がソファにつき、恭...
正直なところ、悪童屋にも呼び出して言いたい何かがあるわ...
ただ、りんくが選んだ男を一目見ておきたかっただけだ。
そして、一目で用は済んでしまった。
奥羽恭兵は骨の髄まで戦士だ。
不器用を冗談で装い、本心を硝煙に隠し、戦場を渡り続ける...
自分によく似ていると思った。流儀も見ている先も違うが、...
それが証拠に、お互い一番知られたくない言葉を即座に察し...
だが、このままでもいいかとも悪童屋は考えていた。
もう少しすれば次の仕事が動き出す。そのタイミングで彼を...
この男にになら娘を託してもいい。何よりも戦士の直感がそ...
きっと娘の未熟が涙や嗚咽を生むことはあっても、この男が...
奥羽恭兵は、そういう誓いを立てた瞳をしていた。
厳しい優しさを持てるのならばそれで充分だ。肩書きも稼ぎ...
「……それで、俺はお眼鏡にかないましたか」
無言に耐えかねたような、気の詰まった声だった。
意外な声に、悪童屋が眉を上げる。
「何だ、気にしていたのか」
「そりゃあまぁ。嫁の父親に呼び出されて、一言もなしじゃあ...
「年は近いんだ、普通に話してくれ」
言いにくそうに敬語を使う恭兵に、悪童屋は口元を緩めて手...
お互い三十の坂は越えた身だ。書類の上では親子だろうが戦...
恭兵は口元を緩め、安堵したようにグラスの水を干す。
「っぷはぁ……。それじゃお言葉に甘えて。いいのか？ 俺みた...
「硝煙臭いだけで結婚できないなら、俺にもその資格はないさ...
「そりゃ道理だ。そういえばアンタも結婚したんだったな。奥...
「……白くて、強い女だ」
「アンタがそう言うならさぞやいい女なんだろうな。うちの嫁...
そう言って恭兵が苦笑する。
相対する悪童屋はなぜか水を喉に詰めていた。
「器用だなアンタ。持病でもあるのか？」
「……いや何でもない。で、そっちからしたらりんくはどうなん...
ムリヤリ話を反らすような口ぶりだった。
だが恭兵は気にとめず、グラスに水を注いで目を細める。
「まぁ、親のアンタに言うのもなんだがいい女だよ。子供だ子...
「素直だな。そういうのは黙るタイプかと思っていたが」
「分かる奴にしか言わんさ。お互い、味方に置き去りにされる...
よく分かる感覚だ。
すべてを失って己の心しかよすがに出来ないあの絶望は、筆...
同じ場に身を置いた人間にしか分からず、二人はそこに身を...
だからこそ通じるものが二人の間にはあった。
悪童屋がためらいがちに口を開く。
「俺は、結婚すれば弱くなると思っていた。弱点が増えると、...
「恥ずかしながら俺もだよ。だが――」
「あぁ。違うな、実際は。例え離れ離れでも、どんな姿形をし...
「同感だ。それがあるなら傭兵ぐらい休業してもいい。しっか...
「こんな事、同じ境遇の奴にしか言わんよ」
悪童屋は天井を見上げる。妻にも見せない戦士の顔だった。
恭兵は悪童屋から目を逸らし、グラスに目を落とす。
それは男同士の無言の友情だった。
二人はゆったりとグラスを手の平で転がし、氷の溶ける音だ...
やがて、恭兵が深く深く溜息をついた。
「なるほど。しかしまぁ、お許しが出たようで何よりだ。コレ...
「恐ろしいことを言う奴だな。ウチの国はよく燃えるし、飛ん...
「いやぁ別に、この国で怖いのはアンタだけだからな。りんく...
「ベタ惚れだな」
「あぁ。いい年したオッサンが、十以上年下の小娘に腰砕けだ...
りんくには恨まれるがな、と静かな表情で恭兵が微笑み、悪...
「うむ、まぁ……そうだな、りんくはいい娘だ。頼んだぞ」
「できる限り努力はするよ。コレでも大事にしてるつもりなん...
「はっ、孫の顔が見られる日を楽しみにしておくよ」
反射的に交わされる軽口。
和んだ場の雰囲気に恭兵は喉の奥で笑い、悪童屋はなぜか地...
「俺も――そういや、アンタに子供ができたらりんくのイトコに...
「……その辺は、当分気にしなくてもいい」
「なんだ。お互い若くないんだ。子供を作るなら早い方がいい...
「それはそうなんだが――色々と家庭の都合がだな」
またも悪童屋が言いよどむ。悲壮な表情が抜けていない。
恭兵は大きな事実に気付いていた。
悪童屋という男、自分の妻の話に言及されると切れ味が途端...
――触れられたくない事情でもあるのか？
相手が自分達より年上だとか。男だとか。種族が違うとか。...
色々な世界を渡り歩いた恭兵からすれば、どれもありえない...
だが、聞いても悪童屋は違うという。
「まさかアンタ、男として――いやいやいや、そう怖い顔をする...
「何だ、一応言ってみろ」
「……奥方が、りんくより年下で手を出せないとか、そういうの...
この硬派が、まさか十代に手を出しているとは思えなかった。
恭兵にとって今の言葉は可能性の確認に過ぎず、もっと他に...
いや、あってもらわないと困る。これは友情を感じた男への...
悪童屋はグラスを握る手を震わせながら、搾り出すように呟...
「……よく、分かったな」
恭兵、唖然とした。あいた口がふさがらない。
この男が、まさか。
「年は二桁……だよな？」
「当然だ！」
「それじゃ、１８、９……いや、それなら普通だな。もっと、下...
悪童屋は無言だった。
それはつまり肯定という意味だ。
もはや残りの人生でそう簡単に驚愕などするまいと思ってい...
はぁ、この骨を叩けば剣の音が、頭を振ればカミソリの音が...
十代半ばの女――いや、少女を、妻に。
素直に驚嘆するしかなかった。
「あぁ、いや……ソイツは凄いな。それも王の器って奴か。それ...
「だから言うのが嫌だったんだ……！」
悪童屋、ほぼ全方位に置いて無敵の男だったが、局所的に脆...
弱みを見せない生き方がこれほどまでに辛いという事を、恭...
男のプライドと男の純情。天秤に賭けて守るには、熾烈な戦...
「アンタも苦労してるんだな……」
そういう事情を男の友情で察した恭兵は、静かにグラスを置...
これは男の友情というよりは、戦士の情けだった。
だが、握った弱みの実行力を確かめずにはいられないのも戦...
恭兵は深く息を吸い込み、顎の無精ヒゲを撫でる。
「お互い、幸せな家庭って奴が手に入ればいいな」
「……俺は充分幸せだよ」
「いやいや、家庭の幸せって言えば旦那と嫁と子供に犬だろう...
「勘弁してくれ……」
効果は覿面だ。
ニヤリと笑う恭兵と、顔を抑えて天井を仰ぐ悪童屋。
思っていたよりは遥かに人間的な反応だった。
この男となら、いつかいい酒が飲めそうだ。恭兵は素直にそ...
妙な連帯感と力関係を産みながら、男同士の夜は更けていく。
お互い、パートナーには見せられない夜だった。
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