[[国設定]]



●国立図書館

 悪童同盟の王城付近に、一軒の小さな建物がある。
 周囲の建物に比べて真新しい近代建築、その入り口には『国立図書館』のプレートがあった。
 広い間取りの玄関ホールを抜ければそこは本の海だ。
 本の状態を第一に電灯や窓の配置にまで気を使った内装のおかげか、館内は穏やかな色調と心地よい静寂に満ちている。
 大人も子供も思い思いの本を借り、ページの向こうの別世界に目を輝かせていた。
 そんな使用者の例に漏れず――いや、炯々と光る目で文字を追う男が、この建物には存在する。
 彼の居場所は館長室。
 図書館の奥の奥、どこよりも密度高く埋められた本に溺れられる場所だ。
 部屋にしつらえられた重厚なテーブルに本を山積みし、床にも積んだ山をサイドテーブルにコーヒーを飲み、ひたすらに文字を追うその男。
 砂漠生活者の民族衣装を白系でまとめた青年――彼の名を、松と言った。
 国立図書館の歴史は浅い。
 何せNW中探しても新しい部類である悪童同盟の中でも、戦争終結後に着手された教育改革の一環として設立されたからだ。
 この建物の発起に彼は大きく関わっていた。
 技術立国をうたう悪童同盟にとって、休戦期間こそが激戦の期間となる。
 落ち着いて腰を据え、技術者の卵を養成し、基礎研究に注力し、武器と油を支える屋台骨として人を育てる、それこそが休戦後の悪童同盟の国是だった。
 この方針は建国当初から明確ではあった。
 悪童同盟のパイロットの練度の高さは折り紙つきだったし、燃料生産能力に関しても群を抜いていた。
 また、各種システムの構築と運用に長けた国民が何度か技術将校として他国に派遣され、先方の燃料系統の効率化に貢献したことも記憶に新しい。
 何より、戦略爆撃機『白夜号』と燃料気化爆弾の独自開発がそれを裏付けている。
 移民の寄り集まりだった悪童同盟は技術の元に結束し、見事に結果を出して見せた。
 これを維持するには、後の世代、後の後の世代という中長期的なスパンを考えた教育システムを確立する必要がある――と、松がお定まりの報告書を書いて提出したのがつい先日。
 肩書きこそ無職の三文文族だが、一応は建国メンバーとして意見役じみたことぐらいはしているらしかった。
 何も悪ふざけで戦闘機作るばかりがこの男の能でもない。それが大半を占めることは否定しようがないが。
 とまれ、国王に提出した書類の束を前に、
『今の間に下を育てて上を鍛えんと、次も同じ働きはできませんよ』
 と一言でまとめしまい、それを聞いた悪童屋も、
『あー? 次は今回以上の働きをするに決まってんだろうが松』
 と報告書を見る前に決済を済ませてしまっていたりもする。大雑把なのはお国柄だ。
 そんなわけで国立図書館は異例の速度で建設された。
 現在、言いだしっぺとして館長室に押し込められた松は、嬉々として図書館に所蔵される予定の本を誰よりも早く読んでいる。
「給料貰って本読んでていいのかねぇ俺」
 などと呟こうものなら電話一本、
『書類読んだんだが、教育システムの整理統合はお前に任せたな、それじゃ』
 大仕事が飛んでくるのも悪童同盟らしい。
 反論の間もなく切られた受話器を見つめ、ずり落ちた眼鏡を押し上げて松は溜息一つ。
「あぁ、まぁ、肩書きはともかく仕事があるっていいことですよねー」
 手の中には一冊の本。
 机の上には百冊の本。
 壁の前には千冊の本。
 そして今日も図書館には本が続々と増えている。
 教育は国家百年の計。
 きっとこの建物は百年後、もっと大きく活気溢れる場所になっているだろう。
 窓の外、図書館に訪れる人波にそれを確信して、松は今日何枚目かのページを捲った。

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