よっきーの手記/アイドレス回想録/番外編「ダイス君開発秘話」

よっきーの手記/アイドレス回想録

ダイス君。
それは（知らない人も忘れてる人も多いでしょうが）評価値計算機能をもつ一連のツールシリーズの名前であります。
彼らの開発の陰にあった経緯について、手記の本編進めるのからすらも逃避行動を起こしたくなったよっきーが解説します。
あ、こっちは本編みたいな PC 視点じゃなくて PL 視点ですのでそこんとこよろしくです。

（注：一年前のことなんで自分も忘れてること多いです。だからちょっとフィクション入ってるかも知れません。うひひ。）

それは今を遡ること約一年前の 2007年1月28日。
Lingr チャット内よけ藩国会議所にひとつのボットが降臨した。

その名はDiceBot?。海法藩王によって生み落とされたそれは、
三日前に公開された Lingr チャット用 API を利用して──おそらくはサンプルコードそのままで──作られたボットであった。
その機能はただ一つ。命令に従ってサイコロを振りその結果を表示するというものであった。

海法藩王はこの技術を転用し、藩国のマスコットたる王猫ガミッチさまを会議所に現出させた。
名前を呼ばれると「にゃん？」「にゃ～ん」などといった返事をするガミッチさまの魅力に国民一同はメロキュンであった。

それをみて二匹目の泥鰌をすくおうと企てたアホがいた。ぶっちゃけ筆者である。
筆者はまずサンプルのボットを開発者用のサイトからダウンロードし、動か……そうとした。
しかしその中身、Readme ファイルの一行目を見て一瞬思考が凍結した。

「Lingr API Ruby Toolkit」
Ruby。名前は聞いたことがあるが詳細に関しては全く未知のプログラム言語……
これは難航するかも知れん、と覚悟しつつまずは動作環境の構築に取り掛かった。

環境は案外すんなりと構築できた。Ruby 言語のサイトに行くと Windows 用のインストーラが用意されていたのだ。
そしてサンプルコードを除いて言語使用も大体理解した。後はマニュアルと首っ引きでなんとかなる。
なんといっても変数の前に記号をつけたり行末にセミコロンつけたりする必要がないのがいい、と思った。

思い立ったら即実行、である。とりあえずサンプルコードそのままに動作することを確認した。
このとき、デフォルトの名前では芸がないと思ってボットに名前をつけることにした。
ダイスを振るからダイス君。この上なく安直なネーミングである。だが筆者は割と気に入っていた。
初歩的な改造テストとして、サンプルコードではダイスロールの結果のみを返していたのを誰が振ったダイスか分かるようにした。

実はこの時点でダイス君のもとの存在意義たるダイス機能については開発が終了していたのだ。
その名の通りダイスを振るボットとしては、後の機能はすべて余禄ということになる。
……なるはずなのだが、シリーズ中にはダイス振る機能のないものも存在する。
みもふたもない言い方をすれば、ダイス君シリーズにとってはダイス機能が余禄であったとすら言える。

次にすべきは機能追加だ、と考えた。
競合相手であるガミッチさまからはダイス振り機能が失われていたため、
ダイスボットとしてだけでも生きる道はあったが、それでは面白くなかった。
最初に思いついたのが、ちょっとプログラムをかじった人間なら誰でもやるであろうおみくじ機能であった。
なんのことはない、ランダムでいくつかの運勢のなかから選んだものを表示するだけの機能だ。
すぐに実装は終了し、動作試験をした。動いた。……シンプルすぎて面白みに欠けていた。
おみくじらしく適当にラッキーカラーやアイテムなどを表示でもすれば良かったのだが、面倒だったのでやめた。

次に、チャットルームへの人の出入りを検知して挨拶をする機能を加えた。挨拶の口調も二通り作った。
だが人が出入りするたびに発言してはチャットログがえらいことになると思って即効機能オフにした。
今思えばチャットルームにいる人数数えて、少ない時だけしゃべらせればよかったのかもしれない。
まあ過ぎたことをいまさら悔やんでもしょうがない。

さて、人気取りはあきらめることにした。どうも自分にはその道の才能がないようだった。
だが単なるダイスボットの座に甘んじているわけには行かない。こうなったら何か実用的な機能をつけちゃうもんねー。
という考えにいつしか支配されるようになっていた。
人間、ソースコードとばっかりにらめっこしていてはダメになるということの典型であった。

折りしも時はターン 3 初頭。
新アイドレスを作り終わったとはいえ、戦勝パレードの開催を迎えまだ戦争の熱覚めやらぬ頃である。
筆者にとってはじめての戦争は数字、すなわち評価値やリアルデータとの戦争であった。
当時筆者は評価値計算に関する記事をよけ藩サイト内に掲載する程度には計算屋だったのだが、
藩国内には近衛カケルさんや飛翔さんといった人が計算用の Excel シートを用意してくれていて僕はもっぱらそっちを使わせてもらっていた。

そこに突然やってきたのがあの惨劇だ。
まああの戦争は表面上勝ったことになっているがその内実はひどいものだった。
せいぜいが数人程度の冒険に最適化したような Excel は中隊・大隊規模の作戦にはつかえなかったし、
当時多くの人が使っていた（と聞いたけど本当かどうかは定かでない）関数電卓も入力の複雑さに泣かされていた。
一番早かったのが上にリンク貼った解説ページの表と首っ引きで通常の電卓を使うと言うもので、
その上に暗算を併用して入力の加速を図らねばならなかったというのはたちの悪い冗談に聞こえるかもしれないが概ね事実だったと思う。
そんな命綱となっていた表でさえも、数値が大きくなって事前に用意した範囲を逸脱すれば無力になることは容易に予想できたし、
数値の範囲が広がればシークタイムの増大や、桁の多さによる誤入力の増大も招くと思えた。

そのような経緯があったから、筆者が求めた実用的機能と言うものが
「どんな大部隊、どんな大評価値にも耐えられる評価値計算ツール」になったのは自然な流れだったといえよう。

最初に開発したのはリアルデータから評価値に直す機能だった。
司令官のお膝元ということで、複数のリアルデータを足し算して一括で評価値に直せるような機能が必要だと考えたのだ。
この機能は思ったより素直に実装することが出来た。しかしこれだけなら関数電卓を叩くのと大差はない。
問題はいかにして評価値と人数からリアルデータを計算するか、であった。
入力した式をそのまま計算させることは可能だが、いちいち 1.5**5*6 + 1.5**3*8 のように書いていたのではまともに使えない。

どうしたものだろうと考えていた筆者が見ていたのは、幸運にもダイス君、すなわちダイスボットのソースコードであった。
ダイスボットは 2D6 といった文字列を 6 面ダイスを 2 個振ると解釈し、その結果を返す……
そうだこれだ！

ひらめいた筆者はすぐさま機能の開発に取り掛かった。
評価値と人数の関係を表す演算子のようなものを作ればいいのだ。使う記号は見慣れた @ とかで適当に。
式を計算させる機能はさっき作ったものから流用して、あとは文字列を適切に置換すれば……できあがった。
エラー制御もそこそこに動作実験を行った。
置換された計算式、合計のリアルデータ、そしてそれを評価値に戻したものが表示された。
成功だ！

こうして、後にXまでの 4 バージョンにわたる計算ツールとしてのダイス君の歴史が幕を開けたのである。
その後のダイス君の活躍については、まあここで話すことでもないから置いておこう。

ちなみに最初に藩王のダイスボットが登場してからこの評価値計算が実装されるまで、
これだけ長々文章を書いておきながら実際にはたったの 12 時間ちょっとしか経っていない。
ひとえに Ruby 言語と Lingr API の高い生産性のおかげである。感謝。（-人-）

さて、このようにして登場したダイス君、この後も伝言機能を搭載してみたり、
CGI スクリプト型のダイス君２号や Teachat 内蔵型のダイス君Ｖ３になったりと進化している。
最新のバージョンは人工無脳エンジン「ロイディ」を搭載した Lingr 対応のダイス君Ｘだ。
現在もよけ藩の会議所で元気に動いてたり動いていなかったりするので、
お暇な時にはこっそりとログインして「ダイス君」と一声かけて彼との会話を楽しんでみていただきたい。
携帯からでも拙作MobileLingrを使えば会話だけはできるのでお試しあれ。