●燃料精錬所
悪童同盟が燃料関係に力を入れている事は、既に何度か触れてきた。
だから、国の規模に対して不釣合いなほど工業化されている側面は、確かにある。
だが悪童屋はそう簡単に満足しない。
どうせやるなら徹底的に。
そういう理念を振りかざし、生産された燃料の品質向上と生産性の効率化のため、燃料精錬所の併設を最初から宣言していた。
元々、燃料というものは精錬するよりも生産する方が技術がいる。
博打のように油田を掘り当てた悪童屋は、当初こそ燃料採掘を優先して藩国ぐるみでてこずった。
しかし実際に燃料が出てきてしまえば、後は比較的楽になる事を見越してもいた。
そして、この施設は、悪童屋の『勝つための勝負勘』が存分に発揮された施設でもある。
今触れたように、燃料は採掘に高精度の土木建築技術や地学的知識が必要であり、また莫大な資本力を必要とする。
対して燃料の精錬は、言ってしまえば化学的手法を知っているかどうかであるためノウハウの共有が容易だ。
だから施設投資の後は、燃料が輸入できる限り産業としては安定するという利点があった。
産油と精錬を一国で賄う必要は、基本的にないのだ。
しかしそれは両方やってはいけない理由にはならない。
悪童屋は、不適に笑って産出量を超える処理力を持った精錬所の設備を整えだした。
稼働当初、解放されていないパイプラインや空の燃料タンクが少なからず存在した。
国民はコレを備蓄のためだと考えていたが、悪童屋の考えは全く違った。
『不思議な事に、高精度の精錬を一手に引き受ける施設って奴はほとんど見かけない。
ダブついてる燃料を輸入して加工するだけでも、一商売になるぞ』
ついでに言うと、他国の分を精錬すれば自国の埋蔵量も温存できるしな、と言った悪童屋を、作業従事者達はぽかんとした顔で見つめていた。
地勢学上、悪童同盟はそれほどの戦略的要衝ではない。だが、同じ地域に産油国を二カ国持つ場所ではある。
燃料の行き来自体は比較的簡単であり、また、犬の国とも聨合を組んで、外貨を容易に獲得するルートも既に構築済みだった。
悪童同盟の燃料は、量が多く質がよい。
最初にそう思わせてしまえば後は同業が立っても信用でやっていける。
長年、放浪で経験を積んだ悪童屋の先見の明と言えるだろう。
当初からビジョンを明確に特化させた国は強い。
今や暗黙の了解になっているルールの再現をしただけだったが、効果は絶大だった。
この燃料精錬所のおかげで、アホのように燃料を食う白夜号を自前で飛ばす事も可能になったのだ。
海底油田の採掘所からパイプラインを引き、地上の燃料生産施設で一気に処理を行ってしまう燃料精錬所は、今日も悪童同盟の工業地帯で元気に稼働している。