●燃料生産地
戦争続きの世界を放浪してきた悪童屋は、自国を作るにあたって様々な事案に頭を悩ませた。
特に大きくのしかかったのは燃料問題だ。何を動かすにも燃料は必要で、燃料が足りない所に戦力を持ってきてもそれはただの鉄クズでしかないからだ。
戦力と燃料と。目指す勝利を手に入れるためには、両者のバランスのとれた供給が必須だった。
だから。勝つ事を信条とする悪童屋が燃料生産地を自国の立地条件に織り込むのも当然の流れと言えた。
そうしてまだ国民とも呼べない悪童屋の仲間達は各地に散り、艱難辛苦の果てに最終的な候補地を見つけるに至る。
比較的埋蔵量が多く、また近くに油田を新規開拓できそうな場所。奇跡としか言いようのない条件に、さすがの悪童屋も喜色をにじませ着工指示を出した。
動きだしてからはさらに早かった。探検者が武勇伝を語る暇もないほどの作業速度に、都市部開発担当の業者が腰を抜かしたほどだ。
悪童屋はとにかく急いでいた。焦りはしなかったが時間は本当に足りなかった。
人員の育成、都市の建設、各種情報処理に加えて共和国への出仕。激務と言うにはあまりに過ぎたそれをさらに圧迫するスケジュール。
藩王のいる場所こそ最もホットな現場、そんな冗談が本気にされるほどの殺人的強行軍の末に悪童同盟の燃料生産所は完成の日を迎える。
建国後間もない完成は国の歴史に残る記録的な大偉業だった。
急いだからといって手抜きなどしないのが悪童同盟のクオリティだ。
オーソドックスに都市部から距離をとり、油田から油井、精錬所、居住施設と必要最低限の設備をそろえた施設群は、主である悪童屋の方針を明確に受け質実剛健な造りをしている。
今となっては簡単に言えるが、作業当時は困難が山積みだった。
海底油田も同時に見つかったために作業箇所を分けざるをえず、寝床と食事以外の居住環境は後回しに作業は開始された。
砂漠と海。あまりに違い、そしてノウハウの蓄積が足りないという点では等しいこの作業は、国民を心身ともに疲弊させた。
それでも共和と愛国の念に突き動かされた彼らはよく働き、悪童屋の期待に応え見事な施設を作り上げた。
まるで一夜城のように生まれた施設群は、いまや悪童同盟の象徴的存在となっている。
今では生活機能はかなり改善されているものの、建設期の国民一丸となって苦境に耐えた気持ちを忘れないようにと盟主のモニュメントと記念碑が後日設置された。
物凄い勢いで悪童屋は嫌がったものの、周囲の好意と熱意に押されて沈黙。大多数をけしかけた一部国民をボッコボコにしたとかしないとか。
無事に稼働の日を迎えた施設は今日も元気に燃料を生産している。
メンテナンスに必要な人員は潤沢とは言えないが、作業に支障をきたすほどでもない。
建設期の激務に比べれば今は天国だと口にする作業者が多数を占めている。
ちなみに今地獄を見ているのは研究チームで、どうにか効率的に燃料を精製できないかと他国にまで足を伸ばす勢いで研究の日々を送っている。
目指すは共和国一の産油国! 戦闘やなんかはよそに任せてオイルマネーを狙うと豪語する悪童同盟の明日はどっちだ。