きー:1234
松さんに感謝しながら投下
●西国人
悪童同盟はにゃんにゃん共和国に存在する。
わんわん帝国の前伏見藩国(冬の京)から旅を出発した悪童屋がたどり着いたのは、スタートとは正反対の熱砂の地だった。
だが砂漠とは人が生かされる場所ではない。戦って生き抜かなければならない場所だ。
他にも幾らでもすごしやすい国を渡り歩いてきた悪童屋が選ぶには、その土地はあまりに過酷過ぎた。
間断なく砂と戦わなければならず、昼間には太陽が照りつけ、対照的に夜は極限まで冷え込み、水は限られた量しか手にはいらない。
それでも彼はこの土地を選んだ。
そしてその日から、帝国やオーマではない相手との戦争が始まった。
悪童同盟は悪童屋が明確なビジョンを持って建国を開始した国だ。
燃料と航空戦力、その二点の増強を視野に入れた設計がなされている。
具体的には油田の探索と工業地区の計画的建設、それに沿った国内の街道をはじめとするインフラの整備などがそれにあたる。
悪童同盟の地図が概ね四角く区切られているのも計画都市だからであり、砂ばかりの広場や植物の少なさが目立つのはそれらの目的を最優先に建設作業が進めたからだ。
だが実際のところ建国時点で間に合ったのは、やはり国民の居住区画と、彼らの生活を支える工業区画ぐらいのものだった。
それ以外の設備では生活圏を繋ぐ幹線道路や物資の取引に必要な港や交易路などがあげられる。
小国である悪童同盟が生き残るにはこの手の設備をおろそかにする事はできず、娯楽関係などの設備よりも優先的に作業は進められた。
悪童同盟が質実剛健な国とよばれる所以は、こういった必要部分から逆算して作られた部分による所が大きい。
最初、悪童同盟は地図中央に位置するオアシスから始まった。
当時十名に満たない国民と、放浪伯とあだ名されていた悪童屋はオアシスに居を構えた。
そこから地道に人をあつめ、街道を整備し、工業地区と居住区の建設に着手したのだ。
今もオアシスには始まりの家と呼ばれる家屋が保存されており、苦境に立たされた国民が勇気をもらおうと訪れる場所になっている。
面積に占める植物の割合が最も多い地域であり、水も充分にある事から観光客を誘致する第一候補にもなっている。
実際、茶目っけを出したとある国民が金メッキした藩王像を飾ってみた所、触ると病気がなおるだの持ち上げると体が強くなるだの噂が一人歩きし、今では地国民の隠れた観光スポットになっていたりする。
工業区画は今後力を入れる予定になっているため、広い場所にポツンと存在する形になっている。
今後の拡充が期待される所であり、完成した部分では工場の、何もない部分では建設の音が日夜さわがしく奏でられている。
昼夜を問わず稼働している工業地域は日ごとに大きくなっており、都市が成長する姿を目の当たりにしている国民達は、活力の源として一日に一度工業区画の方角を見る癖がついている。
工業区画のさらに奥、蜃気楼の向こうには海が広がっており、国家の生命線である巨大な港が存在する。
この国の柱となるのは燃料関係であると藩王は確信しているため、気のはやいことに今から貿易用のタンカーが軒を連ねている。空とはいえ巨大な船が並ぶさまは壮観の一言で、子供達が今一番見たがるものの一つにタンカーがのぼるほどの人気を博している。
悪童同盟は藩国として若く産業もまだ弱いものの、藩王が自ら各地を放浪して人脈を築いてきたおかげか新興国としては比較的信用があるらしい。
一部の国からは燃料関係の輸出が開始されることを期待されているようであり、藩王も急ピッチで燃料生産地の建設を進めている。
王城の存在する居住区は堅牢な城壁に囲まれている。
これは居住区を特別に優遇しているわけではなく、単に有事の際に要塞として使う事を前提に設計されたからだ。
内部の都市も綿密な計画に沿って設計されており、各国を見て回ってきた悪童屋の知識と経験が随所に生かされている。
特に同じ西国人の住むFEGに滞在していた頃の影響が色濃く出ており、未開の砂漠にいきなり建国するという無謀を実現する大きな助けとなった。
建築資材はレンガだとかマントがないと砂埃で死ねるなどといった、砂漠で暮らすには当然の事をしらない移民も多かったため、藩王がマニュアルを作り生活指導を行った事は有名だ。
パッと聞けば間抜けな話だが、初期は涼をとるために水浴びする森国人や服を脱ぐ北国人が多くいたため、長袖を普及させたり小さい窓を納得させるなどのために必要な処置だった。
凍傷は知っていても熱中症は知らないという国民も珍しくはなかったのだから。
こうした様々な工夫と計画都市特有の整備されたインフラのおかげで国民達の身体的な負担は比較的軽くなっており、気持ちに余裕がある証かにぎやかな露天などがひしめく彩りの多彩な都市となっている。
ちなみに王城といっても対外的な都合で地図に大きく書かれているだけで、実物は堅牢な砦とでありとりたてて華美なつくりをしているわけではない。
悪童屋が訪れてきた国をイメージした装飾が施されている箇所があるものの、それも森国をイメージした緑の葉の描かれた城壁や、北国をイメージした一面白いホールなど、あくまで実用品の飾りという形になっている。
始まりこそ放浪伯・悪童屋と各地からの移民で始まった悪童同盟だが、やはり大半の構成員は西国人だ。
砂避けのマントの奥から白い髪と焼けた肌をのぞかせる彼らは、厳しい風土に負けない輝く笑顔をたたえて国を造り続けている。
西国人の例に漏れず手先が器用で感覚に優れた者が多く、悪童屋の語る他国のものも少しの説明で飲み込んではすぐ形にしてしまう。
非常に好奇心の強い国民が多く、街の露天では西国人の文化の枠にとらわれないデザインのアクセサリなどが数多く並んでいる。
エキゾチックな雰囲気の彼らを飾る異国情緒は一際目を引くのか、他国から訪れる人間は悪童同盟の持つ独特の雰囲気を気に入って何度もやってくるケースが多い。